まさかの台本! 出来レースダンジョン攻略記
唯奈はランク5のダンジョンを、ひとりで攻略するつもりだった。
リチャードは眉をひそめたが、すぐに軽く微笑んだ。
「運動のあとには、美味しいディナーが待っています。ランク3のダンジョンなら、気軽に楽しめますよ」
唯奈は不満げに唇を尖らせたが、最終的にはリチャードの提案に従った。
向かったのは、ランク3のダンジョン《モンスターガーデン》。
中級者向けの迷宮で、色とりどりの魔物たちが棲む庭園のような場所だ。
唯奈はワクワクしながら、目の前の扉に手をかけた。
――ギィ、と音を立てて開く扉。
その先に、ぽつんと置かれたひとつの宝箱。
「えっ? いきなり宝箱!?」
唯奈は目をぱちくりさせた。
リチャードが制止する間もなく、彼女は怪しげなスイッチを押してしまう。
「あっ……!」
直後、床が震え、天井から巨大な石がドスンと落ちた。
通路は塞がれ、振り返ったときには出口が消えていた。
「うわっ、なにこれ!?」
「お嬢様、いきなりのやらかしですね」
煙が晴れると、そこには奇妙な丸いモンスターが立っていた。
名は――コロッケン。
見た目はサクサクのコロッケそのもので、足音まで「サクッ、サクッ」と軽快だ。
唯奈は思わず呟いた。
「コロッケ……食べたい……」
するとコロッケンが、やけに優しい声で言った。
「おい、君、こっちに来てくれ」
「ひゃああっ!?」
唯奈は悲鳴を上げて飛びのいた。
「そんなに怖がらなくてもいいだろう。僕はただ、ここでピクニックしてただけなんだよ」
呆気に取られていると、背後から不気味な音が聞こえてきた。
振り返ると、ガラガラと揺れながら奇怪なモンスターが近づいてくる。
「が、ガラガラマル……!?」
その異様な動きに唯奈は腰を抜かし、足がすくんだ。
だが次の瞬間、ガラガラマルは急に方向転換して逃げ出していった。
「な、なんだったの……?」
息を整え、ついにボスの間にたどり着く。
重厚な扉を押し開けると、暗黒のオーラをまとった影が待ち構えていた。
「我こそは――」と芝居がかった声が響く。
その右手の後ろに、なぜか“台本”らしき紙束がちらりと見えた。
唯奈は胸を張り、堂々と叫んだ。
「大人しく、勇者・唯奈に降参しなさい!」
ボスは一瞬で倒れた。
「ぎゃー!」
まるでコントのように転げ回り、動かなくなる。
唯奈は満足げに腰に手を当て、ポーズを決めた。
「これが……勇者の力ってやつよ!」
ドロップアイテムを確認すると、それは「異世界まんじゅう」。
リチャードが宿屋のお土産コーナーで見かけた品だ。
「これ、気になってたんだよね!」
唯奈は嬉しそうに頬をゆるめ、一口かじった。
――実は、リチャードと仲間たちはこのダンジョンをすでに制覇していた。
彼の固有スキル《ダンジョンに愛される王》で、ここの主と仲良くなっていた。
名前は――グラドール。
リチャードに悩みを打ち明けている。
「元の世界に帰りたい……こんな生活はもうイヤだ……」
そこでリチャードは、穏やかに提案した。
「君が、お嬢様の相手をしてくれれば、結果的に元の世界に戻る手助けになるかもしれない」
――そして今、唯奈の冒険は“演出つき”で幕を閉じたのだった。
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