よだれの地図と、今日の冒険を祝福する風
唯奈は昼過ぎに目を覚ました。
……いびきが自分の耳に響いて。
寝ぼけた顔で「誰よこんな音出してるの」と思ったが、すぐに自分だと気づいて頬を赤らめる。
シーツには、よだれの跡。
「うわ……また世界地図、作っちゃった」
思わず苦笑しながら、ぐっと伸びをした。
窓の外は快晴。柔らかな風がカーテンを揺らしている。
――まるで、今日の冒険を祝福してくれているみたい。
ベッドから立ち上がると、リチャードがいつものきっちりした姿勢で、机の前に立っていた。
「おはようございます、お嬢様。最新の情報をお伝えします」
まるで天気予報のような口調で、彼は手元の端末を確認する。
「フェリシア率いる《ブラック・スターズ》が、ランク5のダンジョン『エクリプス・キャニオン』を攻略しました。国王より正式にギルドの設立が認められ、町はお祭り騒ぎです」
「え……本当に!?」
唯奈の瞳がぱっと輝く。
「はい。フェリシアには《時空の勇者》の称号が授けられました」
その言葉を聞いた瞬間、唯奈の顔に闘志が宿った。
「フェリシアにできて、私にできないわけない。――ランク5、行くわよ!」
勢いよく立ち上がった――その直後、スリッパに足が引っかかり、見事に前のめり。
「わっ!? うわあああ!?」
ドサッ。
部屋の中に、派手な音が響く。
数秒後。
床に倒れたまま、唯奈は遠い目で天井を見つめた。
「……今日はツイてないのかな」
深呼吸をして、ふっと笑う。
「でも、これくらいで引き下がるわけないでしょ」
リチャードが小さくため息をつきながら手を差し出す。
「どうかご無理はなさらず」
唯奈はその手を取って立ち上がると、胸を張って宣言した。
「準備が整い次第、すぐに出発するわ!」
リチャードは肩をすくめた。
「お嬢様、せめてお昼を召し上がってからに……」
だがその声をよそに、唯奈はアイテムボックスを開き、おやつを次々と詰め込み始めた。
「エネルギー補給は大事よ! 勇者になるにも糖分は必要なんだから!」
リチャードの小さなため息が、風に混じって聞こえた。
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