俺の運命を知る少女と、世界を賭けたワルツ
――――ロウィンの視点。
デビュタントダンスが終わった途端、会場の空気が一変した。
それまで張り詰めていた緊張が溶け、貴族たちが種族の垣根を越えて、純粋にダンスを楽しみ始める。
そんな中、目の前に現れたのは、まさに俺の運命そのものを象徴する、とんでもない令嬢たちだった。
最初に視界に入ったのは、神族のカリナ。
全身を包む光沢ある白の衣と、背中を流れる銀髪。
その完璧な気品は、正直、近寄りがたいほどだ。
「今夜の舞踏会は見事ですね。……あなた様と踊ることは、私たち神族の義務ですから」
柔らかな声なのに、その言葉には有無を言わせない重みがあった。
彼女の手を取った途端、神聖な重圧が全身にのしかかった。
それは魂まで洗い清められる心地よさと、息を詰まらせるほどの絶対的な格の違いを、同時に突きつけてきた。
続いて前に進み出たのは、深紅のドレスを纏った魔族の令嬢、ゼフィラだ。
黒髪と赤い瞳が妖しく輝き、挑発的な笑みを浮かべている。
「あなたと踊りたくて、身体が疼きますわ。さあ、全てを忘れて、私だけを見て」
彼女の手から伝わる魔力は、濃密で、まるで毒のように甘い。
その力に、思わずたじろいだ。
とんでもない女だが、この危険なダンスが、かえって闘志をかき立てた。
魔族の妖艶な舞いが終わると、人間界から来た勇者令嬢のハナコが優雅に歩み寄ってきた。
鮮やかな緑のドレスが、彼女の気品と力強さを際立たせていた。その瞳には、戦場の全てを見通す指揮官の冷静さが宿っている。
「一緒に踊れば、この空気も変わるかもね。……ねぇ、あの魔族の娘の踊り方、どう思う?」
彼女の知的な視線に、不思議と安堵した。
この女は、俺の重荷を理解している。
彼女の手は心地よく、初めて「同志」と呼べる確かな信頼感が胸に生まれた。
そして、最後に対面したのが、転生令嬢のアリアだった。
漆黒のドレスに身を包んだ彼女の瞳には、時の流れの先が映っていた。
そこには、ただならぬ力と、抑制された悲壮な決意が宿っている。
「ロウィン様、あなたと踊れるなんて光栄です」
その微笑みは、これまでの誰とも違う静かな温もりを俺の胸に灯した。
抗えない予感に突き動かされる。
「君のことが、どうしても気になる」
アリアはそっと頷き、囁いた。
「あなたが背負っている運命……。この世界が迎える結末。私の話を聞いてください」
その瞬間、会場の明かりが消え、音楽が止まった。
ざわめく貴族たちの中で、アリアだけが微動だにせず、まっすぐに俺を見つめ続けている。
「怖がらないで」
「何が起こっている……!?」
戸惑う俺に、彼女はそっと告げる。
「あなたを守り、そして、共に戦う。それが私の転生した意味だから」
その瞳の奥には、世界全てを背負う揺るぎない覚悟があった。
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