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手加減はしない――ヴァルカ、女神イヴリスを制す

 ――――ロウィンの視点。


 誘惑の女神イヴリスは唇をとがらせ、まゆをひそめていた。


「ちぇっ、上手くいくと思ったんだけどなぁ」


 その声には、計画が狂った悔しさがにじんでいた。


 ヴァルカが落ち着いた声で応じる。


「まさか、女神自ら手を下すとはな」


 イヴリスは挑発的に微笑んだ。


「暗黒舞踏会で★5(ファイブスター)の称号を持っていても、あなたに勝ち目はないわ」


 ヴァルカの全身に魔力が満ち、声に強い覚悟が乗る。


「手加減はしない。ロウィンは、俺が先にいただく」


 イヴリスは唇の端を上げる。


「ふふ、面白いわ。私も引く気はない」


 室内の空気が凍りつき、二人の間に鋭い殺気が走る。


 俺は息を詰めた。

 圧倒され、思わず声が漏れる。


「何が始まるんだ……」


 ヴァルカは冷静に指示を出す。


「外で待て。何があっても中に入るな」


 その瞬間、ヴァルカの魔力が爆発した。



 時間がゆっくり流れるように感じる中、VIPルームの奥から衝撃音しょうげきおんが響く。


「――ああぁ……!」

「どうした、もう限界か?」

「……くっ……! ここまでとは……!」

「感じるか? これが俺の力だ」


 魔力の波動が壁を越えて押し寄せ、胸の奥がぎゅっと締めつけられる。


「……どっちが勝つんだ……」


 隣にいるリリスとアルティアが顔を見合わせる。

 ほほが赤く染まるのは熱気のせいか――それとも、別の感情のせいか。


「ヴァルカを信じるしかないわね」


 リリスが声を潜めて言う。


 アルティアも真剣な眼差しでうなずいた。


「女同士の誇りをけた戦いです。――私たちは、手を出せません」



 しばらくすると、音がぴたりと止む。

 張り詰めていた空気が静寂に変わり、息を呑む。


 やがて、ドアがゆっくりと開き、白い光の中からヴァルカが姿を現した。


 イヴリスは床に倒れ込み、顔は紅潮し、よだれが頬を伝っていた。

 全身から魔力の残滓が立ち上り、完全に力を使い果たしていることがわかる。


 ヴァルカの声が闇の広間に突き抜けた。


「今回の暗黒舞踏会の目的は……ロウィンだ!」


 場内の全員の視線が、俺に向けられた。


「皆が、お前の子供を望んでいる。その時空魔法を利用するためにな」


 胸の奥で、何かが音を立てて崩れる感覚がした。


「……どうして、こんなことになるんだ……」

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