表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

58/113

大人の世界へ、勇者デビュー!

 ――――ロウィンの視点。


 ダークエルフ王国――


 その王城の一角、冷気と深い闇が染みついた一室に、俺はいた。


 そんな空間に、ひときわ異質なものが届いた。


 黒い封筒。


 手に取った瞬間から、ただの文ではないと分かった。つやのある紙には、金糸でこう書かれている。


 「堕落だらくの宴、暗黒舞踏会」


 封を切り、中の手紙を広げる。

 優雅な筆跡でつづられていた。


「貴殿を“暗黒舞踏会”へとご招待申し上げます。

神族、魔族、冥族、そして人間――

あらゆる種族が一堂に会す、特別な夜。

この世の果てなき欲望と快楽を、心ゆくまでご堪能たんのうください」


「仮面をご着用の上、ご来場を。

貴殿の存在は、すでに知られております。

皆が、貴方の参加を心よりお待ち申し上げております――」


 ……何だこれは。

 読み終えた俺は、額に手を当てた。


 その様子を見ていたシルヴァーナが、恐る恐る口を開く。


「それって……いやらしいパーティじゃないの?」


 どう答えたもんかと悩んだあと、俺はゆっくりとうなずいた。


「たぶん、そうだ。……でも、ただの快楽で終わるとは思えない」


 その時だった。


 ヴァルカの目が、鋭く光る。


陰謀いんぼうの匂いがするな」


 俺の言葉に、すぐさまルミエールが笑い声を重ねた。


「ふふっ。ロウィンもついに“大人の世界”デビューってわけね」


 茶化してるように見えて、実際はかなり真面目に俺の反応を見ているのがルミエールらしい。


 一方、ザルクスは腕を組み、渋い顔で呟いた。


「婚約中であることを承知のうえでの招待状か……。参加しないという選択もあるぞ」


 視線を落とし、俺は黙り込んだ。


 行くべきか、行かざるべきか――


 明らかに何かが仕組まれている気配はある。それでも、踏み込む価値はあるかもしれない。

 そんな俺の迷いを、周囲のみんなも感じ取っていた。


 すると、ヴァルカがふっと笑い、俺の肩を軽く叩いた。


「心配すんな。一緒に行きゃ、わななんざ怖くねぇ」


 そこへ、シルヴァーナが真剣な表情で口を挟む。


「私も行くわ。一人でなんて、危険すぎる」


 俺は思い切り目を見開いた。


「シルヴァーナ……それは……」


「あなたの婚約者として、見過ごせないの」


 シルヴァーナの意志は、強く、揺るがない。


 だが、ザルクスは険しい表情を崩さずに言葉を放った。


「……シルヴァーナはダメだ」


 その一言には、彼の過去の苦い記憶がにじんでいた。


 ルミエールが口元に微笑を浮かべ、俺に目を向ける。


「ザルクスが初参加のとき、いろいろあったのよね」


 彼は思わず咳き込み、顔を真っ赤に染めた。


「……それ以上言うな」


 場の空気が、ほんの少しだけ和らいだ。


 けれど俺は、まだ決めかねていた。

 顔を上げ、仲間たちを見渡す。


「どうすればいい?」


 その問いに答えたのは、ヴァルカだった。


 俺の背を押すように、力強く言う。


「気楽に行け。お前が楽しむことも、大事だ」


 しばしの沈黙が、部屋に流れた。


 ――そのあとで。


 俺はそっと首を縦に振った。


「……なら、行こう」

 最後までお読みいただき、ありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ