元婚約者の大軍、魔導士の呪文でお帰りいただきました
――――シルヴァーナの視点。
居城の前に立つと、目の前にはかつての婚約者候補、アルヴァス王子がいた。
彼の顔には異常なほどの怒りが浮かんでいて、私を鋭く見据えている。その背後には、彼の命令で集められた無数の軍勢が広がり、張りつめた空気が辺りを支配していた。
アルヴァスは深く息を吸い込む。
「試練を受けて、あんな恥をかかされるなんて……! 俺は全てを失ったんだ!」
私は動揺を見せず、冷静に答えた。
「失敗の理由を私に押し付けるのは間違いです。試練は力を試すためのもの。もともと王にふさわしくないのでしょう」
アルヴァスの顔が歪み、怒りを露わにした。
「ふざけるな! 俺を侮辱した罰を受けろ!」
その瞬間、背後で気配を感じた。ロウィン、唯奈、そしてフェリシアが駆けつけてくる。
ロウィンはアルヴァスの動きをじっと見つめていた。
その隣で、フェリシアが私に問いかける。
「戦わなければいいのですね?」
私は頷いた。
「任せてください」
フェリシアは目を閉じ、呪文を唱える。
「エスパニオール・ドゥーム……」
まるで呪いのように響き渡り、アルヴァスの心に直接届いた。顔色は一瞬で青ざめ、軍勢の動きも止まった。自然と武器を握る手が緩み、戦意も消えていく。
「どうしてこんなことに……!」
アルヴァスの叫びだけが、静まり返った戦場に響いた。
フェリシアは大きく息を吐き、言った。
「今のあなたに戦う意思はありません」
アルヴァスは肩を落とし、やっとのことで呟く。
「引き揚げろ……」
軍勢は無言で去っていった。
私はフェリシアに向き直る。
「あなたの力がなければ、事態はさらに深刻になったかもしれません」
フェリシアは微笑む。
「戦わずして勝つことができるのなら、それが最善ですから」
最後までお読みいただき、ありがとうございました!




