もう逃げねぇ。今度は“狩る”番だ
俺の名前はロウィン。
目を覚ましたら、知らない美少女と化け物に囲まれていた。
記憶? そんな都合のいいもん、あるわけないだろ。
金色の髪を風になびかせる少女がいた。
切れ長の瞳に、冷たい光。でも、その奥にはかすかな脆さと痛みがにじんでいた。
「名前は? 覚えてる?」
「……ロウィン。たぶん、それだけだ」
そう答えると、彼女は小さく頷いた。
「なら、今日からはロウィン。私たちと一緒に逃げてもらうわ」
――え? と思う間もなく、空が裂けた。
雷鳴のような轟音と共に、闇の中から異形の化け物が落ちてきた。
“時間の狩人”。
名の通り、奴らは時間を狩る存在。
そして、彼女たち――エリスとマリスは、その標的だった。
エリスは「時間を巻き戻す」タイムリーパー。
マリスは「時間を止める」タイムリーパー。
この世界には、時間に干渉する異能者がいる。
だが、その力には代償があった。
使えば使うほど、世界の時空は歪み、やがて崩壊を始める。
だからこそ、狩人たちは現れる。
リーパーの力を奪い、増幅し、自らの力とするために。
彼女たちは――生きているだけで狙われる。
逃げるしかない日々。
エリスが時間を巻き戻し、マリスが時間を止める。
そのわずかな隙に、俺はただ走る。死にたくないから、ただ必死に。
「……これだけ力があっても、無力ってわけ」
エリスがつぶやいた横顔は、今にも崩れそうだった。
強い人ほど、限界を超えてしまう。そんな顔だった。
彼女たちの目指す先――それは、魔王アスタロスの討伐。
すべての時間の狩人を操る元凶。
奴を倒さない限り、この逃走劇に終わりはない。
だが、そのためには仲間がいる。
猫耳のトリックスター、サラ。戦闘メイドのレイナ。
そして、なぜか――俺。
エリスは、俺をまっすぐ見て言った。
「あなたには、時間に影響されない力がある。時間を止められても、巻き戻されても……あなたは干渉を受けない。ロウィン、あなたは私たちにとって“希望”なのよ」
信じがたい話だった。
けど、確かに時間の狩人たちの攻撃が、俺にはまるで効かなかった。
回避する意識なんてないのに、気づけば攻撃が“外れて”いる。
まるで俺だけが、時間の外にいるみたいだった。
……もしかして、俺にも何かあるのか?
エリスはさらに言った。
「あなたの中には、“私たちとは違う核”がある。アスタロスが恐れているのは……おそらく、あなたよ」
その言葉が、頭から離れなかった。
記憶をなくし、何も知らない俺が、世界を救う鍵?
ふざけるなって思った。
でも、胸の奥がざわついた。
まるで――どこかでアスタロスの顔を見たことがある。
そんな既視感が、俺の中に残っていた。
この力の正体も、過去の記憶も。
全部、あの魔王にぶつけなきゃ終われない。
だから、俺は決めた。
「もう逃げるのは終わりだ。あいつらが“狩る”って言うなら――今度は、俺たちが“喰う”番だ」
エリスとマリスが、俺を見て目を見開く。
いいか。ここからは、狩られる側じゃない。
狩るのは――こっちだ。
止まった時間の中でも、巻き戻された未来の中でも、
俺だけは――決して止まらない。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。