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こんなスキル、見たことない

 ――――ロウィンの視点。


 シルヴァーナ、唯奈ゆいな、そして俺は改装された闘技場に足を踏み入れた。

 磨き上げられた床が眩しく光を返し、戦いの舞台にふさわしい緊張感が漂っている。


「準備はいいか?」


 俺がシルヴァーナに声をかけると、彼女は柔らかく笑った。


「ええ、大丈夫」


 その笑みには、不思議な安心感と自信がにじんでいた。


 バトルモードはセーフティ設定。致命傷は無効化され、HPは自動回復する。つまり、命をける戦いじゃない。けれど、それでも心臓は高鳴っていた。


 唯奈が聖剣を掲げ、天を仰ぐ。

 誇り高い剣士の姿に、思わず息を呑んだ。手にした「エクスカリバー・ヴェルディア」が淡い光を放ち、空気そのものを震わせていく。


 剣が構えられた瞬間、光が闘技場を満たした。


「聖剣の神よ、この剣に力を与え、姿を現せ」


 まばゆい輝きの中から、少年が現れる。金の髪をさらりと揺らし、屈託のない笑みを浮かべて。


「やっほー! 僕、シャリオン! よろしく!」


 ……おい、これが聖剣の化身か? 思わず目を瞬かせた。


「……本当に大丈夫か?」

 

 心配の色を隠せなかった。


「戦うの得意だよ! 任せて!」


「頼りにしてるわ」


 シャリオンは一転して真剣な表情に変わり、両手を広げた。


「いっくよー!」


 ……よし、俺も本気を出すか。

 メニューを呼び出し、スキルを発動する。


『アルテミス・ゲート』


 太陽の光が薄れ、夜の気配が辺りを満たした。

 そこに現れるのは、女神アルテミス。白銀のよろいまとい、気高き神聖さを放ちながら俺の前に歩み寄る。


「呼び出されたからには、力を貸すわ」


 唯奈の目が大きく見開かれた。


「こんな力、ずるい……」


 その言葉を合図に、シルヴァーナが高らかに宣言する。


「試合開始」


 唯奈が踏み込み、剣を振るう。連撃が俺を包囲し、光の剣閃が闘技場を駆け抜けた。


「無限剣技」――唯奈の代名詞。


「インスタント・ストップ」


 俺はスキルを解き放つ。

 空間が歪み、すべての動きが凍りついた。


 ――はずだった。


「バカな……」


 凍りついた世界の中で、唯奈だけが動いている。


 信じられない。


「私の剣技は、止まらない」


 彼女は淡々と告げ、剣を振り抜いた。


 アルテミスがすかさず前へ出る。月光を帯びた防壁が広がり、斬撃を受け止めた。


「この守りを崩せる者など、存在しない」


 緊張が極限まで高まる。


 唯奈とシャリオンが同時に駆け出した。

 雷の刃がシャリオンの手から放たれ、唯奈の剣と交わる。


「ソード・ブレイカー!」


 雷と光の奔流ほんりゅうが闘技場を揺るがす。


「いけるわね!」

「全力だよ!」


 ……なら、俺も全力を見せよう。

 真っ直ぐ前を見据え、言葉を放つ。


「アストラル・シフト」


 風が止み、空気が凍りつく。放たれた力は、まるで最初から存在しなかったかのように元へかえった。


 唯奈とシャリオンが動きを止め、驚愕きょうがくの声を漏らす。


「……あり得ない、こんなスキル」


 その声をさえぎり、シルヴァーナが言い放った。


「ここまで」


 闘技場は静まり返った。ただ、熱気だけがそこに残っていた。

 最後までお読みいただき、ありがとうございました!

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