異世界勇者、学園で嘲笑される――今、逆襲の幕が上がる
――――ロウィンの視点。
目を開けた瞬間、見覚えのある風景が目に飛び込んできた。
……ソウルヴァース学園。
勇者養成RPG「吾輩は異世界から来たニャン娘なり!」をプレイした、あの日と同じ光景が広がっていた。
異世界で命を削った戦いの日々は、まるで夢の中の出来事のように遠ざかり、ここには朝の光と埃っぽい校舎の匂いだけが、静かに俺を包んでいる。
隣を歩くシルヴァーナが、ふと俺をのぞき込み、照れくさそうに微笑んだ。
「どうしたの? ロウィン」
いつもより柔らかく、穏やかな声。胸の奥で、荒れ狂っていた心の波が、潮騒のように少しずつ静まるのを感じる。……けど、現実を飲み込むのはまだ簡単じゃない。
それでも、何かが変わった気がするんだ。
「……いや、なんでもない」
ぎこちなく笑ってごまかす。デートの話なんて、今の俺には遠い昔の出来事のように思えた。
「ねえ、デートの行き先、決めた?」
無邪気に問いかける声に、顔が熱くなる。思わず視線を逸らした。
普段の凜々しさとは違う。今の彼女は、どこか甘えるような雰囲気をまとっている。
「今日はバトルリーグだよね? 終わったら、ゆっくりふたりで相談しよ?」
その言葉で、胸のざわめきが落ち着く。
……そうだ、今日は戦いの場。勝たなきゃ、俺の居場所はない。約束もある。気を引き締めないと。
俺は「村人Aコース」の校舎へ。
シルヴァーナは「スペシャル勇者コース」の城のような施設へ。
それぞれの道を進む。
学園の門をくぐった途端、足が止まった。
冥王と魔女との死闘――あの選択が脳裏をよぎる。
もしあれが全部現実だったなら……この世界は、一体何なんだ?
「……俺は、なんでここに戻ってきたんだ?」
ふと口に出してしまう。それでも、心の奥で低く囁く声がある――「前を向け」と。
──そのとき、耳に届いたのは嘲る声。
「役立たずのロウィンじゃん」
「この学園にいるとか、ありえないし」
「お前のHP、常にゼロって感じ~」
……はぁ。
軽く息を吐く。慣れたと思った。
だが、胸の奥はまだ動揺していた。
異世界で英雄のように戦った俺と、ここでの俺。
別人のように扱われる現実は、心臓を直接つかまれたような痛みだった。
それでも――下は向かない。
アスファルトを踏みしめる一歩一歩が、過去の自分との決別の音に聞こえた。
深く息を吸い、意識を落ち着ける。
──『新たな世界が、きっと待っている』
旅で築いた絆、選んだ未来、そして俺自身。
すべてが、この場所にいる理由になっている。
「ここで終わるような選択だけは、もうしない」
その呟きは誓いとなった。
三人組の嘲笑を、氷のように凍らせるほどの。
振り返らず、俺は前へ進む。
バトルリーグの舞台が、すぐそこに待っている。
……そこで何を見せるか。
それが、未来の俺を決めるんだ。




