ニャン娘サラが暴く勇者の真実
――――ロウィンの視点。
俺は「はじまりの町」のギルドに足を踏み入れた。
ざわめきと熱気が肌を刺し、異世界の空気がじわじわと体の芯まで染み込んでくる。
依頼掲示板をなんとなく眺めていると、隣から声がかかった。
「こんにちは。何かお探しですか?」
振り向かずに掲示板の一枚を指さす。
「これが気になってて……」
受付のリリィがほんの少しだけ言葉を飲み込み、顔に影が差す。
「最近、この町で大きな騒動があったんです」
俺の視線が鋭くなる。
「騒動って、どんな?」
リリィの声が低くなり、周囲の音が薄れていくように感じた。
「勇者パーティーが裏切ったのよ。表向きは英雄だけど、裏ではギルドの金を横領し、商人から不正に金品を奪っていた」
凍りつく気配が、胸を突き抜けた。
「勇者が、そんなことを?」
言葉に震えが混ざる。目の前の世界が揺れた。
「私も信じたくない。でも事実なの」
リリィの瞳が真実を告げている。
俺は間を置き、訊ねた。
「で、そのニャン娘のサラって奴は?」
リリィが小さく頷く。
「彼女はずっと酷い目に遭っていたの。けれどレイナさんと力を合わせて悪事を暴き、勇者たちを追い出したんだ」
思わず唇が歪んだ。
「ニャン娘に勇者がボコボコにされたってことか?」
リリィは少し笑った。
「そうよ。サラさんの戦い方は野獣そのもので、勇者たちは為す術もなかった」
(あり得るのか? そんな話が……)
頭の中で疑念と驚きが渦巻いた。
「今じゃサラさんとレイナさんは町の英雄だ。魔王アスタロス討伐の希望としてみんなが期待している」
言葉が胸に突き刺さった瞬間、世界が止まった。
音が消え、時間の流れが溶けてゆく感覚。
耳に響くのは自分の鼓動だけ。
目を閉じて深呼吸をする。
意識が研ぎ澄まされ、時間の流れが俺の意思に反応する。
「俺の中に、まだ知らない力が眠っている……」
不安と期待が入り交じり、冷たい熱が全身を駆け巡る。
ここから始まる――確かな何かが目覚めている。
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