このままじゃバッドエンド確定なので、百年前の勇者と未来を変えることにしました
――――ロウィンの視点。
勇者養成RPG《吾輩は異世界から来たニャン娘なり!》をプレイしていたはずの俺とシルヴァーナ。
だが突然、見たこともないイベントが起き、気づけば時間を遡っていた。
――そこは百年前の人間界。
勇者サラたちが「神の勇者」と呼ばれ、戦乱を終わらせようとしていた時代だった。
戦況は収まりかけていた。だが、冥王ハルバス・ドラウグスが、敗北した魔王アスタロスの魂を奪い取り、再び世界に火種を撒こうとしていた。
多元世界で不穏な動きが広がり、各地が揺れ始めている。
俺たちはその中で、どう動くかを慎重に話し合っていた。
世間では「人間界の勇者が異世界ラグナヴィアを侵略する」なんて噂が飛び交っていたが、真実は違う。
動いていたのは統一国家 《ノヴァ・ユニオン》。
奴らの艦隊 《ノヴァ・レギオン》が、資源と特異種族を狙い、ラグナヴィア侵略を進めていた。
しかも、冥王軍と魔王軍まで密約を結び、アスタロスの魂と引き換えに領土を差し出すという。
……このまま放置すれば、今後は間違いなく地獄になる。
だが、俺たちが動けば、歴史は変わるかもしれない。
シルヴァーナは肩をすくめ、震える声で呟いた。
「怖い……でも、何もしないわけにもいかない」
夕焼けの光が彼女の横顔を照らし、軽い風が髪を揺らしていた。静かな時間の中、彼女の言葉が響く。
「もしあなたまで、私から奪われてしまったら……」
俺は彼女の瞳に込められた想いを感じ取り、その重さを胸に刻んだ。
やがて、彼女の声が零れた。
「このまま、ロウィンと静かに暮らせたら……」
二人で生きるという選択肢――その思いが、心に深く残る。
だから俺は目を閉じ、深く息を吸い、ゆっくりと答えた。
「……俺たちで、冥王軍の企みを止める。サラと力を合わせて」
シルヴァーナは思わず息を呑み、言葉を探しながら、ようやく俺を見上げた。
「でも……本当に、それが正しいのかな? サラに任せた方が、もっと……安全じゃない?」
「任せておけば、大丈夫な状況だと思うか?」
視線を彼女に注ぎながら、言葉を続けた。
「冥王軍が動き続ければ、戦火は必ずまた広がる。止められるのは、今しかない。お前と一緒なら、どんな困難でも越えられる」
しばしの沈黙。
「……もし私たちが過去に干渉して、もっと大きな災いを生んだら?」
彼女は唇をかすかに噛みながら、瞳に不安を宿していた。
「それでも、目の前で燃え広がる危機を、俺は見過ごせない」
俺の言葉は自然と強くなり、心の中で固まった決意が、全身を突き動かすように感じられた。
そして、シルヴァーナはゆっくりと頷いた。
「……わかった。あなたがそう言うなら……信じてみる。今動かなければ、何も変わらないものね」
胸の奥で、熱く何かが灯るのを感じた。
俺は微笑み、そっと彼女の肩に触れた。
その温もりが、彼女の迷いを少しでも溶かすように。
「ありがとう、シルヴァーナ」
「でも一つだけ気になるの。冥王軍と魔王軍が本格的に動き出したら……人間界を守れる手立てって、あるの?」
「まずはサラに会って、全てを話す。彼女たちの力を借りれば、準備は進められるはずだ」
彼女は一度目を閉じ、息を深く吐いた
「それなら、すぐに連絡を取って作戦を立てるべきね」
「時間は限られてる。急ごう」
互いに交わした視線に決意が宿っていた。
ここから、歴史を変える戦いが始まる――そして、俺は彼女の手を決して離さないと心に誓った。
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