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冥王に裏切り者と知られた彼女を守るため、未来予知で無双します

 ――――ロウィンの視点。


「……一緒にいてほしい」


 その言葉が空気に溶けた瞬間、世界の色が変わった気がした。

 背筋に冷たい空気が這い、耳にほのかな振動が伝わる。


「誰かが来る……」


 シルヴァーナの声が詰まり、手元の魔力が揺らいだ。

 俺は柄に手をかけ、目を細めて暗闇をにらむ。


「アサシンか」


 その言葉を口にしただけで、彼女の背筋もぴんと伸びた。目が闇を捉える。

 そして影が、静かに走った。


 漆黒しっこくのフードをかぶった男――冥王軍の暗殺部隊長、ヴェルディス。

 低く、冷たい声が辺りに響いた。


「……シルヴァーナ」


 胸の奥に重みがのしかかる。フードの下から放たれる気配に、強い殺意を感じた。

 彼女の息が止まったように見えた。


「冥王様は、すでに知っている。お前が離反していることも」


「……安心しろ。お前がどんな選択をしても、俺が守る」


 言い放つと、ヴェルディスの魔力が渦巻く。


「闇域の絶対刃 ≪ダークゾーン・アブソリュートブレイド≫!」


 叫びとともに、強烈な斬撃ざんげきが生まれる。

 耳を切る風圧に砂利が跳ね、足元の大地が震えた。

 俺に向けられた一撃は、容赦ようしゃなく迫ってくる。


 だが、俺の目が金色に染まった。

 《刻印》――未来を映す力が、意識の奥でひらめく。


 迫る一撃、かわし、反撃する未来の自分の姿。

 その映像に導かれ、体が勝手に動いた。


 斬撃が空気を切り裂く音を耳に、俺は気づけばヴェルディスの背後に立っていた。


「終わりだ」


 剣を振り抜く。

 冥王の影が断たれ、黒衣の男の体が揺らぎ、徐々にかすみのように消えていく。

 闇の力さえ、俺の見通した未来には及ばなかった。


 戦いが静まった後、シルヴァーナはただ立ち尽くしていた。

 胸元が小さく上下し、息づかいから安堵あんどの気配が伝わる。


「……こんなにも強かったのね」


 俺はその瞳を見つめ、ただ見つめ返す。


「私は……あなたと一緒だから。もう怖くないの」


 彼女は微笑んだ。


 言葉以上に心が通じる。

 耳に、そっと俺の名を呼ぶ気配が届いた。


「……ロウィン……」


 顔をゆっくり近づけ、唇を重ねる。

 短く穏やかなキス。その一瞬に込められた想いが胸にずしりと響く。


 胸の奥に温もりが広がり、冷えていた指先までじんわりと温かくなる。

 この世界のすべてが、俺たちだけのものになったかのような安らぎ。


「これからも……共に歩こう」


 その声に、彼女が胸に手を置き、小さくうなずく。


「はい。私は、あなたと……」

 最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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