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勇者サラ、そして俺たちの戦い

 ――――ロウィンの視点。


 サラは戦神ヴァルグリムに導かれ、選ばれし勇者として覚醒かくせいした。

 神威かむいがその身を包み、血潮のように力が脈打つ。

 彼女の瞳には迷いがなく、ただ戦うべき運命を受け入れていた。


「立ち塞がるなら誰であろうと斬り伏せる――これが勇者の誓いニャ!」


 サラは「エターナル・ハーモニー・リヴァイブ」で、魔王と化したかなえの心を救い出した。

 その瞳には決意の光が宿る。

 高らかに詠唱する。


「神光の天罰――《光刃雷竜コウジンライリュウ》!」


 天地を裂く轟音ごうおんとともに、八つの首をもつ雷竜が顕現けんげんした。

 その咆哮ほうこうは大気を震わせ、魔王軍と冥王軍を暴風の光で呑み込み、跡形もなく消し去った。


 参謀アスヴァルはたおれた。だが、その肉体は崩れ落ちることなく、黒き炎に包まれてゆく。

 裂けた大地から瘴気しょうきあふれ、虚空に轟音ごうおんが響いた。

 その媒介を通じ――魔王アスタロスが現世に姿を取り戻した。


「ヴァルグリムよ……私に力を! あの魔を、討ち払うニャ!」


 アスタロスは魔界の扉を開き、ケルベリス・ノクスを召喚しょうかん

 対するサラは戦神の力を使い、天使セラフィナを呼び出した。


 サラは「ヘブンズ・レクイエム」でアスタロスを打ち倒し、「光の牢獄 (プリズン・オブ・ライト)」でその魂を封じようとする。


「光よ、永遠の牢獄ろうごくとなれ――!」


 だが、冥王ハルバス・ドラウグスが割って入り、アスタロスの魂を奪い去った。


おろかなる勇者よ。アスタロスはただの器にすぎぬ。我が覇道はどういしずえと化すのじゃ」


 そして、闇の渦となりながら、その姿は消えた。


 サラは悔しげにつぶやく。


「……アスタロスを討ち果たしたはずなのに……冥王まで現れるニャンんて……!」


 セラフィナが静かにうなずく。


「けれど、あなたの光はまだ揺らいでいません。勇者サラ――次に立ち塞がる闇も、必ず討てます」


 サラの瞳が力強く輝いた。


「うん……もう迷わないニャ。たとえ冥王だろうと、私が必ず――光で打ち砕く!」



 俺は揺れる景色の中で、エリスとマリスの姿をじっと見つめていた。

 二人は何も言わず、ただ立っている。その沈黙が、胸に重くのしかかる。


「お前たち、何か隠してるな」


 俺が問いかけると、エリスは目を伏せた。深く息を吐き、ゆっくりと顔を上げる。


「もう……あなたと一緒には戦えない」


 落ち着いた声だった。だけど、瞳に宿る想いは隠せていなかった。


 俺は立ちすくむ。言葉の意味が頭の中でぐるぐる回り、胸の奥で何かが崩れそうになる。

 マリスも、何も言わず、ただ俺を見つめるだけだった。


「なぜだ……?」


 声が震えた。どうしてそんなことを言うのか、理由が知りたかった。


「私たちには、言えないことがある」


 エリスの言葉が胸を刺す。俺は目を細め、彼女を見つめる。

 かつての仲間の面影は、もうその瞳にはなかった。


「言えないこと?」


 問い返す俺に、エリスはゆっくり息を整え、視線を戻して言った。


「それが、今の私たちにとって一番大事なことなの」


 静かだが、強い意志を感じさせる声だった。


 俺は足を止め、胸の奥で何かがあふれそうになるのをぎりぎりで押さえる。


 言葉にすれば、きっと壊れてしまう――


「エリス、マリス……ずっと一緒に戦ってきたんだぞ」


 弱々しくつぶやく。声が途切れそうになる。


「数えきれない敵を倒して、死ぬほどきつい戦いも、全部乗り越えてきたじゃないか。俺は……お前たちを信じてる。仲間だって、俺は信頼しているから」


 沈黙を破ったのは、マリスだった。


「私たちも、同じ気持ちよ。今でも、変わらずそう思っている」


 その瞳は揺るがず、断固たる光を宿していた。


「でも、戦う理由は、それだけじゃないの」


 エリスがゆっくりと歩み寄り、俺の目をまっすぐに見つめる。


「あなたが好きなの」


 澄み切った、ぶれない声だった。


「それが、私の理由」


 言葉を失った俺の胸に、静かに波紋が広がる。


「エリス……マリス……」


 ようやく口に出した名に、すべての思いが詰まっていた。

 どう返せばいいのか分からず、俺は立ち尽くす。


 二人はそっと目を合わせ、小さくうなずく。その表情には、どこか寂しさがにじむ。


「でもまた、あなたの力が必要になるときが来る。そのときは――」


 エリスが強く言った。


「私たちをひとりにしないで」


 マリスが声を添えるように続ける。


「そうよ、絶対に――」


 俺は目を閉じ、短く息を吐く。

 そして、ゆっくり顔を上げ、二人を見据えた。


「わかった。どんなときでも、必要なら必ず力を貸す」


 二人はほっとしたように笑みを浮かべ、目を閉じる。


「ありがとう、ロウィン」


 エリスの声には優しさと、わずかに別れの色が混じっていた。


「またね。必ず会いに行くから」


 マリスは涙をこらえつつ、そう言う。


 俺は、ゆっくり離れていく二人の背を見つめた。

 胸の奥に湧き上がる想いを抱え、俺もまた歩き出す。


「じゃあな……エリス、マリス」


 その声には、過去への感謝と、これから進む未来への決意がこもっていた。

 最後までお読みいただき、ありがとうございました!

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