冥王軍のダークエルフ指揮官になった私が、勇者である彼を倒すはずがない。むしろ、全力で守ります
――――シルヴァーナの視点。
ロウィンの行方が、ずっと心配だった。
彼の手がかりを求めて、私は記憶を保ったまま、勇者養成RPGゲーム《吾輩は異世界から来たニャン娘なり!》をプレイし続けていた。
そして──あるゲーム内イベントをきっかけに、私は現実世界を飛び越え、過去の時代に飛ばされてしまった。 そこで私が手にしたのは、冥王軍のダークエルフ部隊を率いる指揮官としての役割だった。
(ふふ……まさかこんな形で再会するなんてね。私はただ、あなたを追ってきただけなのに。敵同士になって顔を合わせることになるなんて、想像もしなかったよ。でも……いいの。こうして、あなたの姿を見られるなら、それだけで十分)
ロウィンは、変わらず──いや、ゲームの中よりもずっと眩しかった。
戦場の埃と熱気の中で、彼だけがまるで別の空気を纏っている。
一歩踏み出すたび、鋭い殺気と不思議な温かさが同時に溢れ出す。その背中を見ているだけで、胸の奥がじんわり熱くなる。
(好きだなんて、言えるわけない。だけど……ずっと言いたかったんだよ。ずっと、ずっと……)
私は表向き、冷静に戦況を見つめるふりをしていた。
でも胸の中は、抑えきれない感情でいっぱいだった。
剣を振るうたびに生まれる風がこちらまで届いて、息が詰まりそうになる。
思わず口元が緩みそうになり、慌てて自分の尻をつねった。痛い。でも、効かない。
「このままじゃ……私、我慢できない」
戦局よりも、彼の動きばかり追ってしまう。
横顔を一瞬でも見れば、胸がぎゅっと締め付けられる。危険すぎる。
「ああ……ほんと、かっこよすぎるんだから」
自分で言ってしまって、慌てて口を押さえる。
ロウィンの力は、目に見えない形で周囲を惹きつける。戦場の真ん中にいるのに、不思議と安心できる──そんな存在感に、私は完全に囚われていた。
(でも……あの子たちがいる)
彼のそばには、エリスとマリス。どちらも強く、美しく、彼を守り抜く覚悟を持っている。
わかってる。でも、譲る気なんて、欠片もない。
(ううん……絶対に負けない)
戦況は混乱の渦中だった。
ダークドラゴンのアルザスが炎を吐き、ブラックデーモンのヴェルガスが巨躯で前線を押し上げる。
(そんなもの、ロウィンには通じない)
私は戦っているふりをしながら、心はまるで別の場所にあった。
報告なんて形だけでいい。結果は後からどうとでも言える。私が本当に欲しいのは……もっと彼に近づく理由。
「撤退!」
威厳を込めて指示を飛ばす。
部隊が慌ただしく退く中、私は小さく笑った。指揮官としての責務? そんなもの、今はどうでもいい。
(……私にとって、守りたいのはロウィンだけ)
──遠くからロウィンの視線が私に触れた。
その刹那、胸が熱く締め付けられた。
(……やっぱり、運命だ)
誰にも悟られないように、私はそっと笑みを浮かべる。
胸の奥で、甘く熱い炎が静かに燃え上がっていた。
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