警備の癖、二度振りの剣――ダンジョンは王の予測を超えない
リチャードたちが迷宮へ足を踏み入れた途端、地面が低く震え、壁に刻まれた文様が走る光で満たされた。
その瞬間、空気が刃と化した。
暗がりの奥から、石像の群れが姿を現した。
無機質な身体が、命を得たかのように剣を持ち上げ、侵入者へ無言の殺意を向けてくる。
低い囁きにも似た振動音が周囲に広がった。
入口を塞ぎ、逃げ場を消す気配――“死の迷宮”の洗礼だ。
だが、リチャードは平静を崩さない。
鋭い視線で敵と罠の流れを読み取り、即座に仲間へ指示を飛ばした。
「これは警備の仕組みだ。動きの癖をつかめば、解除の手がかりに届く」
そう言うと同時に、石像たちの死角へ滑り込み、剣を避けながら仲間を導く。
「オスカー、右側の腕に注意しろ。二度振りが来る」
「了解!」
「ベルナ、後方の床が落ちる。足を引け!」
「え、うわっ……助かった!」
リチャードの予測は全て的中する。
罠の音、石の擦れる軌道、床のわずかな沈み込み――その全てを読み切っていた。
通路の奥で、巨大な石の扉が姿を現した。
重圧が漂い、「押せ」と言わんばかりにそびえ立っている。
しかし、リチャードはすぐに見抜いた。
「これをそのまま押せば増援がくる仕組みだ。
オスカー、足元の四番目を踏め。隠しスイッチだ」
「任せろ!」
スイッチが作動し、扉が重々しく開く。
同時に、石像たちの動きがぴたりと止まった。
「全員、今のうちに抜けろ!」
仲間が通り抜けていく中、リチャードは壁を駆け上がり、上部の封鎖装置を叩く。
扉が閉じはじめると、再び石像が動き出すが――間に合わない。
バン、と扉が完全に閉じ、迷宮は静寂を取り戻した。
「……よし。全員、無事だな?」
仲間たちは大きくうなずき、胸を撫でおろした。
恐怖が残る空気の中で、ただ一人、リチャードだけが落ち着き払っていた。
ダンジョンは彼の領域。
迷宮の仕組みそのものを読み切る“王”の風格が、背中に宿っていた。
彼らは休む間もなく、奥へ続く暗闇へと歩を進めていく。
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