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記憶喪失の俺が呼ばれた先に、氷の黒姫(シルヴァーナ)がいた――忘れたあの記憶と共に

 ――――ロウィンの視点。


 視界が激しく揺れ、空間が歪んだ。

 足元から広がる光の波が身体を包み込み、エリスやマリスもその中へと吸い込まれていく。


「な、何が起きているんだ!?」


 エリスの声がかすかに届くが、音は遠ざかり、光の渦に溶けていった。

 平静を保とうと必死に踏ん張ったが、鼓動こどうが早まり、時間の流れすら狂い始める感覚に体が支配されていく。


「これは……ただの転移じゃない」


 巨大な力が俺たちを引きずり込み、しかもその力は「サラ」という名に呼応している――そんな予感が胸をかすめた。


 視界の端に、半透明のウィンドウがふわりと浮かび上がる。



【システム】

「記憶欠損を検知。情報自動補完中。未知の事象も理解可能です。」



 知らないはずの情報が、脳裏にスッと入り込む。

 まるでこの世界が、俺に語りかけるかのように秘密を解き明かそうとしている気配があった。


 光の中で断続的に映像が浮かび上がる。

 サラが勇者の証「ルミナス・フェザー」を掲げる姿。

 魔王軍指揮官アスヴァルと冥王軍の艦隊が激しく交戦する様子。

 ダークエルフやダークドラゴン、ブラックデーモンの軍勢がうごめいている。

 時空を越えるように情景は次々と変わり、まるで時間の壁を突き破る錯覚さっかくおちいった。


 やがて光は消え、ぜる炎と金属がぶつかる音が耳を突いた。

 叫び声と衝撃波しょうげきはが、現実へと引き戻す。


 目を開けると、見たこともない焼け焦げた大地が広がっていた。

 黒煙の立ち込める空。魔王軍と冥王軍が、人間界を蹂躙じゅうりんしている現実――俺の知る世界とはまるで違っていた。


 その最前線にいたのは、かつて勇者パーティーの一員だった天星かなえ。

 だが今、彼女は魔王として目覚め、アスヴァルやアリスティアを率いていた。

 冥王軍の艦隊までもが、その勢力に加わっている。


 勇者側に残されたのは、サラとレイナの二人だけ。

 しかし、サラはひるむことなく放った魔法「カオス・ゴッド・チャーム」が空間をねじ曲げ、異様な重みを生んでいた。


「みんな、来てくれてありがとニャ!」


 サラの声に呼応するように、無数の光の柱が天へと伸びていく。

 異世界から帰還した勇者たちが続々と姿を現した。

 俺、エリス、マリス。クラスメイトの軍勢やスライム、聖剣の使い手たち――多様な力を携えた仲間たちが集結していく。


 その視線の先に、俺ははっきりと確信した。


「あれは……!」


 異世界ラグナヴィアからの帰還者。

 かつて魔王軍の一員だったダリウスが現れた。

 彼はエルフやユニコーン、フェンリルといった異種族を率いている。


 その姿は、戦局に新たな希望の光をもたらしていた。


「みんな、頼んだニャ!」


 サラが笑顔で仲間たちに声をかける。


 その瞬間、俺の視線が凍りつく。

 ダークエルフ部隊の先頭に立つ女性の姿。

 胸の奥がぎゅっと締め付けられ、忘れていた記憶の扉が静かに開かれていく。


「……シルヴァーナか?」


 懐かしさ、戸惑い、そして深い悲しみが混ざり合い、心が乱れる。


 あのシルヴァーナが、どうしてこの時代にいるのかはわからない。

 だが、この再会の意味を知るためには、この戦いを乗り越えるしかない――本能的にそう理解していた。

 最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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