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エピローグ
これが今日の水槽です。
そう言って、テーブルの上に置かれた水槽を彼女は複数の目で覗き込んだ。
違うわね、
そう一言言って、後は一瞥もせずに今まで覗いていた水槽にもう一度複数の目の視線を戻しつつ、その水槽に近寄った。
窓際に佇む男が、
まだ、ダメかい、と。声を掛けても
彼女は、水槽をコンコン叩いて、そこに居るはずもない魚、熱帯魚を呼び出し続けた。
水槽を持ち込んだ男は、持ってきた水槽と、其の中に棲んでいる者と一緒に退出した。
相変わらず、エアポンプと浄水機から吐き出される水の音が、その部屋を支配している。
窓際の男が、複数の目で外の風景を眺めていたが、一点を見詰め、そして彼女に言った。
そろそろ、次の場所にいこうか。
そう、声を掛けられ、ゆっくり複数の視線を水槽から外さず答えた。
夕日が、オレンジ色を濃くし、その色がカーテンに映えた。
同時に時を報せる、掛け時計の鐘の音が部屋中に響いた。
急かすように。
目を通していただき、有難うございます。