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2話その後

 この両生類は何て言うんだろう、そう思いながら彼女は配達された水槽の中にいるこの両生類と一緒に配達された餌を食べさせていた。

 暫くすると、携帯端末片手に男が部屋に入ってきた。首からいかにも、と言った金のネックレス。手の甲まであるタトゥー。

 いや、首や、後頭部までそれは広がっていた。


 何やら、仕事の話らしい、かなり激昂していて、壁を殴りつけながら怒鳴っていた。

 男の怒鳴り声は大嫌いだった。

 小さい頃、よく父親。

 父親と呼ぶには寒気がするような奴によく暴力を振るわれていたから、聞くと体が委縮してしまう位だった。


 彼と知り合った頃は、とてもやさしくとても思いやりのある人だった、だから、この人ならと、一緒に住みだしたのだ。

 だが、日を追うにつれ、段々粗暴になり、私にも暴力を振るうようになった。

 体中に痣が絶えなくなったのは、この頃からだ。


 テーブルを蹴り倒し、椅子を蹴り飛ばした。

 端末の向こうでは、どうやら何か条件が折り合わない様な様子で、向こうの人間を口汚く罵っていた。


 私は彼の好みに、合わせようと一生懸命尽くしていたと思う。

 したくもない髪を染め、ファッションも彼に合わせ。

 体中にピアスをし、タトゥーを入れ、いつでも彼のためにと思って尽くしてきた。


 水槽のそれに視線を落とし、

 お前はいいよな、と無機質に表情の変わらない両生類に声を掛けた。


 急に隣の部屋に入っていた彼が私を呼びつけた。

 ビク付きながら入ると、いきなり部屋の掃除がなっていない、とか、お前のせいで、

 と言いながら、私に新しい痣を刻み付けた。


 再び携帯端末を片手に怒鳴りながら、荒々しくドアを閉め、話を付けてやるとかなんとか、端末の相手に怒鳴り、こちらに一瞥もせず部屋を出ていった。


 いつ帰ってくるの、と声を掛けたつもりが、ドアの激しい音に掻き消され、残された彼女静寂と言った無音が後に残された。



 暫くすると、彼の外車のものすごい爆音が聞こえそして遠ざかって行った。

 そして遠くにその音は、搔き消えた。

 音が聞こえなくなるのを確認すると、ため息と散らかった部屋をノロノロ片付けだした。


 片付けながら、涙がボロボロ溢れ出した。

 父親からの色々な暴力と、今の彼の暴力が重なって自分の運命を呪った。

 どうして、と自問自答しながら、彼があの水槽にいるおとなしい両生類なら、そしてその傍に私も同じ様に居れば、とても穏やかに暮らせるのではないか。

 そう思って、片付けが終わり、部屋の片隅にある両生類の水槽を眺めていた。


 不意に人の気配を感じ部屋の隅を見ると、見知らぬ男がヌッと立っていた。

 叫び声を上げそうになるが、声が喉に貼りついて声が出ない。

 それを知ってか知らずか、その男は静かにしゃべり出した。

 静かに穏やかに、その両生類の様に暮らしたいと、願いましたか?

 と、確認するように物腰は柔らかいが、どこかこの世のものでない何かが、喋っていた。


 これまでの人生がぐるぐる回って、自分はなんて甲斐の無い人生なんだろうと思いを馳せ、そして一つの結論に至った。


 彼も一緒なら。


 顔は見えなかったが確かに笑ったような気がした。


 気が付けば、水槽の中だった。

 水槽のガラスに反射した自分の姿を見て全て察した、ああ、これで穏やかに生きていける、と。


 頭上から声がした。

 君たちだけじゃ餌や水槽の手入れは難しいだろう、引き取って面倒見てあげるよ、なあにお代はこの子も返してもらうんだ、そっくり返金しておくよ。


 そう見知らぬ男は水槽を抱え、その水槽の中に居る両生類3匹に声を掛けた。


 其の中の一匹は狂ったように水槽の中を暴れまわっていたが、もう一匹は穏やかな、とても穏やかな様子でジッとしていた。


 幸せをかみしめるように。


お付き合い下さり、有難うございます。あと、数話です。

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