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近所に水槽屋、という店が出来た。
水槽屋。
アクアリウムを、和風に言い換えたのだろうか。
少し店先を覗いてみた。
屋号の通り、ガラスの長方形の水槽が、入り口から店の奥まで左右の壁沿いに、高さは天井に付くほど整列して並べている。
奇妙な事に、全てに水が張っていて、水草がエアポンプの泡と、浄水機の吐水で揺らめいているのだが、中には生物、魚類、または両生類といったものが一匹もいない。
一歩、二歩と水槽の一つ一つを確認するように、生物を確かめたく知らぬ間に店の奥の方まで来てしまっていた。
やはり、なにもいない。
水槽を売っているから、水槽屋。
いやいや、全く同じ形の、サイズの、水槽を並べていても、色々な形、サイズ、デザイン、機能性などを並べてこそ、商売として成り立つはず、無機質に同じものを並べていても、と。
少し歩みを店の奥に進めてみた。
何かお探しで。
店の奥の方からの、声が私に歩みを止めさせた。
あ、いえ本当に水槽だけなんですね。と声の主に声を掛けた。
これからですよ。
声だけが帰ってきた。
これから仕入れてくるので。
それっきり、声はしなくなった。
天井まである水槽の、全てのエアポンプと浄水機の吐水音が低く店中に唸っていた。
じゃあ、また来ます。
と声を、店の奥に投げかけ、そそくさと店を後にした。
水槽屋。独り言のように先の店の名前を呟いた。
店の主人だろうか。少なくとも客が来店したのだから、開店前であっても、出迎えもあっていいのでは、と訝しがりながら帰路に就いた。
機意味の悪い。とまた、独り言を先程の店に対し呪文のように吐いた。
引き続き目を通していただき有難うございます。