イエスタデイ
イエスタデイ。このことばを聞くと、あなたは何を思い浮かべるだろうか。ヒゲダン?はたまたビートルズ?僕の場合、登戸のラブホだ。
小田急に乗って和泉多摩川を通過して多摩川を渡っているときに見える三日月のマークに描かれたHOTEL YESTERDAYの横文字。
僕が最初にイエスタデイを知ったのは、英語教師がyesterdayという単語が出てきて話したしょうもない雑談から。
僕はこのとき、とんでもないことに巻き込まれるとは知る由もなかった。
あるとき、昼休みに教室で座って弁当を食っていると、部活の先輩が突如教室に入ってきて、こんな願い事をされた。
「俺の彼女が多分浮気してるからさ、お前、尾行してくれないか?」
え!、という声が漏れたのと同時に、しー!と人差し指を口に当てた先輩。
この先輩の彼女は横浜にあるお嬢様女子高に通っていて、家もだいぶ金持ちだったはずだ。彼女と付き合い始めてから先輩のインスタはリア充にしかできないキラキラ陽キャ青春インスタになっていて嫉妬の感情から最近は見てなかった。なのに、こんなことになっていたなんて。
「まあ急に尾行って言われても、意味わかんないと思うから、具体的に説明するわ。」
そういってことの顛末を先輩は説明してくれた。先輩が彼女の家でNetflixの恋愛映画をみているとき、彼女が途中でトイレに行くので部屋を出て行ったあと、彼女のスマホがピロンッと鳴った。何気なく先輩はスマホの画面に目をやった。すると、
「けんと:次のデートいつにする?」
え?先輩の名前は雄樹。だが彼女のスマホにはけんとからのLINEの通知が表示された。先輩はこの時こう思ったらしい。「いや、兄弟かなんかだろう。でも、万が一の時のために一応確認しよう。」
よくよく思えば、兄弟が「デートいつにする?」というLINEをしてくるわけがないのだが、当時の先輩は焦っていてそのような結論に達したらしい。
彼女がちょうどツムツムを開いていたので彼女が戻ってくる前に急いでLINEのアイコンを探す。手が滑って違うアプリを開く。そうして開いたけんととのLINEの内容によると、けんとと二人で川崎の水族館に行ったあとまあまあ高い店を予約してあるからそこで夜飯を食べてけんとの家がある登戸で解散。デートの流れはこうだ。そして、交通費とか飯代はやるから尾行して写真を撮ってほしいそうだ。それで浮気した彼女を問い詰めると。僕は問い詰めることに意味はない気がしたが、あえてそう言わなかった。
彼女とけんとのデート当日、僕は休日は家でゴロゴロしていたかったが、体に鞭打って、川崎駅までやってきた。15時。約束の時間だ。
先輩の彼女が駅前でスマホをいじって待っている。僕はそれをじっと見ている。すると、僕はとんでもない光景を見てしまった。
和彫りが後頭部まで入った大男が彼女に話しかけていた。
終わった。身長190は確実にある。川崎でタトゥーを全身に入れている男はあっち系の人しかいないのよ。よく目を凝らしてみると、右手の小指がないのが分かった。彼はけんとではない。ケンさんだ。けんとなんて軽々しく呼んではいけない方だ。僕は今すぐ逃げようと思ったが依頼料2000円を頂いてるので逃げるわけにもいかない。いや待てよ、「危機的興味本位」。
僕の好きな歌にこういう歌詞がある。よし、ついていこう。
水族館に着いて僕もしっかり1400円を払って、チケットを買った。
そして普通にけんとと彼女はデートを楽しんでいる。そして僕は見失わないように時々彼らの写真を撮りながら、普通に水族館を楽しんだ。今思えば、不審者はどちらかと言うと僕のほうだったのかもしれない。
水族館デートの後は見るからに高そうなイタリアンに入った。ケンさんとのLINEの内容よりも高そうな店だぞ。大丈夫か。そういって入ると、僕の嫌な予感は当たった。
「オレンジジュースが900円?!」
終わった。いくらなんでも高すぎる。お通しと飲み物で先輩から渡された分は使ってしまう。そうなると僕はもう金がない。なので僕はオレンジジュースと細い箸みたいなパンで2,3時間つぶさないといけない。
彼女とケンさんは屋上のテラス席に行った。僕はテラスが見える屋内の席でパンを肴にオレンジジュースをちまちま飲んでいた。店員は見るからに僕をいやそうな目で見ていたが、鋼のメンタルを兼ね備えた僕にはそんなのは効かない。
その後8時くらいに店を出たので僕は慌ててついていった。
すると小田急が見える多摩川の土手沿いを二人は歩いていた。ケンさんの事務所はここらへんにあるのかなとか考えてた瞬間、二人が急に路地のほうに入っていった。やばい、見失うと思った僕もそれにつれて急いで路地に入っていく。
すると、二人はとある建物の前で立ち止まった。
イエスタデイだ。
終わった。下ネタ好きの英語教師が言ってたわ。イエスタデイってラブホがあるってことをそこで今思い出した。二人が入っていく。急いで先輩は僕に電話した。二人のデートを撮って逐一LINEに送っていたのですぐ出た。
なので、先輩もケンさんが堅気の人ではないことは知っていた。
「どうした?」
「二人がラブホに入りました!」
一瞬の沈黙が流れた。
「入れ!クレカ使っていいから!」
「え?」
「早く!」
万が一のときのために先輩が持たせてくれた先輩のクレカ。使うときがくるなんて。なんで高校生なのにクレカ持ってんだよ。
僕は久々に死に物狂いで走った。これでもかと思うほど走った。
そしてケンさんたちが入った部屋を聞き、その隣の部屋をとった。
また電話をして、どうすればよいか聞いた。すると、
二人がヤっているの録音しろと。
地面師か僕は。
地面師たちで尼さんがホストと乱交パーティーしているのを録音するシーンあったけど。そういわれた僕は息を殺して二人の営みを録音した。
翌日、ホテルに泊まった後早朝に部屋を出た僕は先輩に録音データを送れと言われたのでLINEを開いて、一時間ぐらいあったので6回に分けて送った。その日は日曜日だったので、家で地面師たちの二回目を観た。
翌日、先輩が教室に入ってきてありがとうと僕に伝えた。
なんで僕に録音させたか聞くと、こう答えた。
「俺、寝取られに興奮するんだよね。」
は?
「お前の録音めっちゃシコかったわw、マジサンキューな」
真のやばい人はケンさんでなくこいつだったのかもしれない。




