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台南女子的中学日々

台湾人女子中学生達は猪脚麺線で災いを蹴飛ばしたい

作者: 大浜 英彰

挿絵の画像を作成する際には、「AIイラストくん」を使用させて頂きました。

 在籍している台南市立福松国民中学へ登校した私こと王珠竜(ワン・ジューロン)は、同級生にして日台ハーフの菊池須磨子さんから相談を持ちかけられたの。

挿絵(By みてみん)

「どうしたの、菊池さん。今日は元気ないね?」

 私の問い掛けに、菊池さんは軽く頷いて応じたんだ。

挿絵(By みてみん)

「おはよう、珠竜ちゃん。実は私、ちょっと気掛かりな事があってね…」

 随分と不安そうな面持ちだけど、どうしたのかな。


 そんなシリアスな空気をぶち壊すように、もう一人の友達が至って快活な様子で教室に入って来たの。

挿絵(By みてみん)

「菊池さん、珠竜ちゃん!二人とも先に来ていたなんて、まさに不幸中の幸いだよ。」

 不幸中の幸いって、曹林杏(ソウリンシン)さんったら何があったんだろ?

「実は理科の教科書を忘れちゃってね。隣で見せて欲しいんだ。全く、今日はツイてないよ…」

 その一言を聞くや、菊池さんの顔がサッと青ざめたんだ。

「ゴメン、林杏さん…林杏さんがツイてないの、私の不運が伝染したせいかも知れない…」

「どういう事、菊池さん?」

 話を聞いた所、どうやら菊池さんはジンクスに囚われているらしいの。

「こないだの日曜日、家族でレストランに行ったんだ。買って貰ったばかりの夏服を着てね。」

 そう言うと菊池さんはスマホで写真を見せて来たの。

挿絵(By みてみん)

 このマンダリンカラーの黒服が、新しい夏服だね。

「へえ、生地も上等そうだし割とお洒落じゃない。良かったね、菊池さん。」

「それが良くないんだよ。何しろ記念写真を撮った直後に、靴紐が切れて転んじゃったからね。」

「えっ、靴紐が…」

 それは確かに気掛かりだろうね。

挿絵(By みてみん)

「うちのお父さんも、今の珠竜ちゃんと同じ反応だったよ。『これは縁起悪いな…』って。」

 そう言えば菊池さんのお父さん、日本人だったね。

「その後もよろけた店員さんに烏龍茶をかけられて、もう散々。」

 そんな不運が立て続けに起きたら不安にもなるだろうね。

「それは残念だったね、菊池さん。でも、どうして日本では靴紐が切れるのを不吉って言うのかな?」

「さあ…どうしてかな、林杏さん?」

 林杏さんも菊池さんも、このジンクスの由来をよく知らないみたいだね。

「それはね、昔の日本の御葬式と関係しているからだよ。昔の日本の御葬式では棺を埋葬した後に草履の鼻緒を切って墓地の入口に捨てるんだ。だから日本では履物の紐が切れるのを『まるで葬式みたい』と言って嫌がるんだって。」

 そう説明する私だけど、この知識も所詮は日本法人に単身赴任していたお父さんからの受け売りだからね。

「よく知ってるね、珠竜ちゃん。流石は学年屈指の哈日族ハーリーズーだよ。」

「成る程…私自身は生まれも育ちも台南だから、その辺詳しくなくてね。」

 だから二人が深く突っ込んで来なかったのには、正直ホッとしたよ。

「そう!ジンクスなんて気の持ちようだよ。良い機会だし、放課後は三人で厄落としをしようよ!」

 こうして私達の放課後の予定は厄落としに決まったんだ。


 私達が下校する頃には、空も夕陽で赤く染まっていたの。

挿絵(By みてみん)

「う〜ん、否応なしにお腹が空いてきちゃうなぁ…」

 この中西区の繁華街には馴染みの店も多いから、つい目移りしちゃうね。

挿絵(By みてみん)

「ね…ねえ、珠竜ちゃん…」

 そんな私の様子が気になったのか、菊池さんが怪訝そうに覗き込んで来たの。

「大丈夫、珠竜ちゃん?今日の放課後の目的、忘れてない?」

「厄落としでしょ、菊池さん?分かってるって。」

 そう太鼓判を押したんだけど。

挿絵(By みてみん)

「でも、御寺や御廟からは離れてるよ。それで本当に厄落とし出来るの?」

 正論だね、林杏さん。

 だからこそ、この後の反応が楽しみだよ。


 こうして私達三人は、小さな食堂に辿り着いたの。

「ここの猪脚麺線ズージャオミェンシェン、凄く美味しいんだ。」

 その一言を聞くや、二人は得心そうに頷いてくれたんだ。

「ああ、成る程!猪脚麺線ね!私の家もお母さんの安太歲で御堂へ御参りに行った帰りに、みんなで食べたっけ。」

「林杏さんのお母さん、今年が犯太歳なんだね。私の家も、御祖父ちゃんの誕生日に家族総出で食べに行ったよ。」

 二人が言ったように、台湾では厄除けや長寿の願いを込めて猪脚麺線を食べるんだ。

 何しろメインの具である豚足には「災いを蹴飛ばす」って意味があるし、白い細麺には「細く長く生きる」って願いが込められているからね。

 こうして口当たりの良い麺をレンゲで掬えば、口の中に広がる温かい出汁の風味が厄を除けてくれるようだよ。

挿絵(By みてみん)

「この豚足でコラーゲンが補給出来そうだね。これで肌艶を良くして、あの夏服がクリーニングから戻り次第記念写真をやり直そうかな。」

 どうやら菊池さんも、自分で気持ちを切り替えられたみたいだね。

「日本式のジンクスは台湾式の厄除けで解決するか…これも一種の台日交流だね。今度の日本文化の選択授業のレポート、日本と台湾のジンクスの比較考察なんてどうかな?」

 それは良いアイデアだね、林杏さん。

 厄落としの効果、早速出て来たのかな?


 こうして三人で猪脚麺線を食べるのも、なかなか良い物だね。

 また何かあったら、厄落としがてらに来ようかな。

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いつも新しい学びのある作品をありがとうございます!(*- -)(*_ _)ペコリ 豚足は食べたことがありませんが、可食部ってどれぐらいあるんでしょうかね?(*ノωノ)←量を摂るタイプ(爆) 1人では…
麺線おいしいですよね!(*´ω`*) でも、猪脚のものは食べたことなかったです。 コラーゲン補給できそうですね……!(`・ω・´) ついてない日ってどうしてもありますけど、仲の良い友達とおいしいものを…
拝読させていただきました。 こういう厄落としはいいですよね。
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