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4 お茶会

「オリビアのお茶会は、毎回楽しみたわ」

「今日のコレは何?」


オリビア。それは、私の名前だ。

ジュリアは、仮の名前。レオのいる世界での私の名前。

主人のいる世界では、オリビアと呼ばれている。


二人はソフィアと、アン。 ジェミの入寮式で意気投合した。

ソフィアとは、マダムの夜会で知り合ったのだが、アンの前では()()()()知り合ったことにしている。

今では、何でも話せる親友だ。


「それは、東の国のお茶なのよ。 向こうの紅茶……みたいなものかしら?」


緑色の液体を前に、はしゃぐ二人に説明する。


「変わった香りね……」


そう言いながら、オズオズとカップに口を寄せるアンは、私たちがパトロンをしていることに反対している。


「あら、美味しいわ」


躊躇なく、緑の液体をコクリと飲み干すソフィアは、売れない役者の後援(パトロン)をしていた。

なんどか、彼女のお気に入りの()が出演している舞台を見に行った事がある。


―――よく、わからなかった。


素直な感想を述べる私に「芸術は好みだからね」と、ソフィアはカラカラ笑う。


「そういえば、西の国境付近が不穏なんですって?」

「また、小競り合いが始まったらしいわね」


二人が不安げに尋ねてくる。西の国境地帯は、主人の担当区域だ。


でも、主人とは顔も合わせていない。 それどころか、家に帰ってきていない。


「さぁ、会話が無いから、わからないわ」

「そう? うちの人には、かなり惚気てるって聞いたけど」


アンが不思議がる。

彼女の主人も軍人だが、担当区域が違う。


「何を惚気ける事があるのよ。愛人の元に帰っているのに。 愛人との出来事を、私に置き換えて誤魔化しているのよ。きっと」

「でも………」


―――しつこい。


アンには、何度も説明した。

主人には、愛人がいること。 

そして、家に寄り付かないこと。


さすがに、毎回とぼけられるとイライラが募る。


「アンには、わからないのよ。 貴方達は、珍しく恋愛結婚ですものね」


つい、刺々しい返答をしてしまう。

ハッと気付いた時には、もう遅い。


微妙な雰囲気が漂った。


「これ、美味しいわね」


唐突にソフィアが、テーブルに並べられたお菓子をパクつく。


「どちらにしろ、オリビアのご主人は『世間体を気にする』って事よ」


興味なさげにそういい放つソフィアは、私をチラリと流し見てクスリと笑う。


「そういえば、夏前にはホテルが竣工するのかしら?」


視線をお菓子に戻したソフィアが、何気なく話題を変えた。

彼女のこういった気遣いに、いつも私は助けられる。


「そうね。順調に進めばだけど………」


いつだか彼女にそそのかされた、エルセル湖畔のホテル開発だが、国の新駅開発と並行して、進んでいた。

彼女の()()が、効いたのだろうか。


私たちの話題は、子供たちの初めての夏季休暇や、もうすぐ開かれる王家主催の舞踏会に変わった。


この舞踏会で、今シーズンの流行りが決まる。 

どこでドレスを仕立てるか、どんなデザインにするか。 そして、ドレスが王族と被ってはいけない。


「また、西側と小競り合いが始まったのでしょ? あまり派手な装いはさけたほうが良い、って噂よ」

「炊き出しにくる人達も増えたものね」

「王都まで、戦火が来るとは思えないけど、大丈夫かしら」

「領地が近い人は、気が気でないでしょうね」


私達の生活に、戦争の影が落ちてきた。


「近い内に、教会に手伝いにいきましょうよ」


ソフィアの提案に、私とアンは頷いた。


―――数日後、私達は王都から少し離れた所にある教会に、手伝いに向かった。

私達の他にも、見知った貴婦人の輪があり、軽く会釈をし合う。


負傷者が運び込まれている部屋に入ると、主人の部下だという青年に出会った。


彼は、主人を賞賛する。

でも、私の心は動かない。 

貼り付けられた微笑みと、中身のない感謝を述べた。

そして、彼は言った。


「奥様の話を、いつもしていました」


いったい私の何を知っているのだろうか。

ここでも、愛人を私に見立てて話を作っているのだろうか。

腹ただしい。


婦人達との雑談の中で、気になる話があった。

『西側との小競り合いではないらしい』

『領民の暴動が頻発している』

『軍に家族が所属している人は、心配よね』


チラリとソフィアが私の顔を覗き見る。

私は、無言で首を振る。


(愛人さんは、さぞ心配なことでしょうね)


ざまーみろ。と思ったが、なぜか気持ちが落ち着かなかった。










いかがでしたでしょうか?

よろしければ、☆を頂きたく思います。


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