1,追放
「望まれなかったサラマンダー国の灯を消し去るであろう。」
「三匹目の狼はこの国に冬をもたらすであろう。」
ガタンガタンと獣道を走る馬車の音が聞こえる。どれくらい馬車に揺られているのだろう。
私の前の席に座る男の子は馬車に乗り込んでから全く体を動かさないでまっすぐ床を見ている。
真っ黒な髪の間からわずかに見える赤色の瞳がきれいで、まるで宝石みたいに目が離せない。本当はすごく怖いのだけどなぜだか彼がいると思うだけで心が落ち着いた。いつになったら止まるのかしら。このまま殺されてしまったらどうしよう。
三週間前、神殿から一年に一度の神からの祝福の信託を受ける日があった。周りの態度が急変したのはその日からだった。
「三匹目の狼って絶対にヴィヴィアお嬢様様のことよね。どうする?私たちまで目付けられたら?」
なんて会話をしているのを聞いた。三匹目の狼がどうなるのかはわからないけど確実に自分の話だということは分かった。わたしの家紋であるアリステール伯爵家の家紋が狼なのはハトン王国の国民全員が知っているといっても過言ではないからだ。今朝家の前に大きくて真っ黒な馬車が止まっているのを見て捨てられたんだと悟った、、そんなことを思い出しているととてつもない寂しさに襲われて涙が零れそうだった。
「おい、降りないのか?」そう言われ顔を上げると目の前には男の子はいなかった。
「おい、寝ぼけてんのか?」
横から声が聞こえたので振り返るとドアが開いていた、どうやら気づかないうちに目的地に着いたらしい。誰のエスコートもなしに扉から出るとそこは灰色の世界だった。
草木は枯れ、空は曇天、そして凍えるような寒さはまさに絶望だった。
「北の大地か、、ここで始末したいんだろう。」そう言って前を歩く男の子についていくしかなかった。
ここはまるで色をなくしたような場所だった。私が初めて首都以外の地に降り立ったた記念すべき場所は何もかもが寂しく、孤独という言葉が生まれたような閑古な北の大地と呼ばれるところらしい。
自分が何を犯してしまったのか真剣に考えたがいくら考えても神に嫌われるようなことはしたことがなかった。そんな絶望の中で前を堂々と歩く同じ背丈の彼についていくしかできなかった。なぜか彼となら耐えられる気さえした。そんな彼は大きな鉄でできた扉をゆっくりと開けた。
今まで伯爵家の末っ子として溺れるほどの愛を受けてきた私は付き添いの待女を連れずに知らない土地を歩いているなんてありえない話だった。
まだ前半の方なので恋愛要素は少ないですが、ぜひご愛読いただければと思います。
よろしくお願いします。