湖月和志
このページの作品はエブリスタにて、「絵本 神様の庭、夕焼けの少年」という題で投稿しました。
なろうでは挿絵が入れられない(作者がそのための登録をしていない)ので、文章のみで投稿します。
涼原朝美は子供の頃から、同じ夢を見ていました。
どこまで飛んでも草原と空しか見えない世界。
そこで、大きな大きな水晶の形をした船に乗って旅をしている自分の夢を。
朝になって目が覚める度、いつも思うのです。
「あっちの世界が現実だったらいいのに」
朝美は学校や家族や友達と一緒にいるよりも、
家の庭から自分ひとりで空や川を眺めている時間がいちばん好きだったのです。
※
赤ちゃんの頃から一緒に育った、最も身近な友達とも、ある日ケンカして離れてしまい、思いました。
「彼もやっぱりふつうの男の子で、あたしの好きな景色を一緒に見られる人じゃなかったんだ」
※
朝美が中学二年生の九月。
夕焼けに染まる赤い街の中で、不思議な少年に出会いました。
残暑も厳しいのに空色のダウンジャケットに、薄ピンクのうさぎのマフラーに、冬用の分厚い手袋。
暑苦しい上に何年も着古したようにくたびれていて、髪の毛だってボサボサなのです。
「名前は?」
「和志。
昔は別の名前だったけど、
『和志ちゃんがいなくなったのはオレのせいなんだから、責任とってオレが和志になりなさい』
って、親に言われてそうなった」
※
少年は何年も前の冬の日に神隠しにあって、世界から消えていました。
「これから十日間の、空が赤い時間だけ、君の願いを叶えてあげる」
神様がそう言うので、彼は願いました。
「ふつうの人と同じ、音が聞こえて、言葉が話せる体が欲しい」
※
たったの十日間しかいない人なのだからと思って、朝美は彼女にとって大切な場所である、自宅の庭に彼を招きました。
そこから見える大きな川や広い空や街の木々などの景色を眺めて、彼は言います。
「オレは誰とも話せなかったから、家の近くにある自然だけが味方だった。
お互いに言葉を交わせなくたって、いつでもそばにいてくれたから」
それからの十日間、ふたりは時間の許す限り、一緒に街を歩きました。
公園や街路樹などのわずかな自然を探索してみたのです。
※
十日目。
「今日の夕焼け空が終わったら、和志がいなくなってしまう。
だったらもう、夜も朝も昼もこなくていい。
この空が赤いまま、時が止まってしまえばいいのに」
「朝美はさ、空が赤いのは夕暮れだけだと思ってる?
夜が終わって、朝いちばんの空だって真っ赤なんだよ。
夕焼けだってきれいだけど、オレは朝焼けの赤い空も好きだな。
オレは世界にかえるけど、それはこれから朝美が見る自然のどこにだって、オレはいるってことなんだ」
※
少年は朝美の慣れ親しんだ街の川で、泡となって消えてしまいました。
※
高校生になった朝美は、かつてそう願っていたように、
「草原の世界」へ行くことが出来ました。
その世界での彼女の務めは、一度入ったら二度と外へ出られない水晶船の中に入って、空や星や大地などの自然を観測することです。
でも、朝美はちっとも寂しくありません。
自然を見つめているとそのどこにでも和志がいるような気がしましたし、
あるいは姿が見えなくてもいつもそばに彼がいてくれるような気がしたからです。
短編連作である本作品を最後まで読んでくださり、ありがとうございました。




