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クメールの微笑み  作者: 船木千滉
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第2話(その3)

2009年8月30日、与党大敗!

 私がなぜカンボジア王国を選んだかといえば、客先の紹介で同国の大臣補佐官と知り合ったことだった。


 組合の定款は技術研修生の派遣と、経営を安定させるための事業展開であった。先立つものはやはり金であり、そのための日銭稼ぎとしてあれこれ頭を使った。


 まずは現地を訪ねて大臣補佐官の案内で知見を得た。市内の一戸建てを賃貸して百均の店を開き、人材を集めて研修所を開き、組合員の応援を得てもの造りを模索して、着々と準備を進めていった。


 並行して膨大な資料を作成し、満を持して管理局へ研修生の入国申請を出した。だが役人はけんもほろろ、取りつく島もなかった。


「なんで、なんだ――」

 と、管理局の建物から出た私は、真夏の陽に晒された歩道を歩きながら吐き捨てた。


 九月に入ったというのに大阪の夏は異常だった。

(なんでこうも大阪の街は、どこもかしこも街路樹がないのや)

 と、私はどうにもならない忌々しさで、大阪の夏に八つ当たりしていた。


 それほど役人の応対に憤懣やる方なかった私は、難しい顔をした行政書士と並んで、蒸れるアスファルトの上を歩いていた。


 彼は役人に向けたしかめっ面のまま、どこか白けた風に言う。

「選挙ですよ……。誰もまさか、あの政党が勝つとは……」

「政党?、政党が、どう関係しているのですか?」


 それは先週のことである。八月末の衆議院選挙で与党が大敗していた。単独過半数を取った野党が政権を取るのは確実になっていた。


「ご存知じでしょ、あの政党のバックには、労組がいますからね。どうあっても、外国人労働者は締め出すつもりでしょ」


「しかし、まだ新しい政府の影も形も……」


「そこが役人の役人たる由縁ですよ。石橋は叩いても渡らないけど、天の声が聞こえたら血の河でも、一斉に渡りはじめるんですよ」


「じゃあ我々はこの一年……、いったいなんのために……」


 カンボジアに橋頭保を造るまで、どれほどの時間と資金をつぎ込んだが。それを考えると私は照りつける太陽が忌々しかった。


 やみくもにネクタイを外すと、客先の若い管理職の顔が浮かんできた。


「社長――、早晩、中国も高くなるから、インドかパキスタン、まあどこでも良いから、安いところを探してよ――」


 それが仕事欲しさに客を接待した上で、私が受けたご託宣だった。要はもっと安くしろと言う。せっかく円高の波を乗り越えて、獲得した指定業者の位置を守るべく、私はアジア各地を走りまわった。


 すでにカンボジア王国では研修生の面接を終えて、十数名の候補者を絞り込んでいた。すでに事業の方も、百均の店につづき組合員に依る中古車販売や、造船所向け艤装品の製造も手掛けている。


 だがいずれも資金回収までには至らず、余力は残っていなかった。


(第3話へつづく)


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