番外「誠くん」1
再びギター・誠の話
今日は土曜日。
オレはいつものように、せっせと、お部屋のお掃除に励む。
ゴミ取りのコロコロを持って、絨毯をコロコロする。
うっ! 聡美の髪の毛じゃない毛を発見!
オレにとってコロコロはギターの次に大切な代物だ。
コロコロ様様である。
亮と玲子ちゃんのところに第一児が誕生して、お食い初めの祝いに行ったとき、祝い返しでもらった高級チョコレートを、テーブルに並べてみたりする。
聡美も一緒に行ったから、同じ物をもらっているんだけどね。
そのチョコレートを見て、思い出した。
亮に言われた言葉。
「誠もそろそろ聡美ちゃんのこと、ちゃんと考えてやれよな」
考えてないわけじゃなかった。
聡美は、もうすぐ28歳になる。
いつまでもこのままでいいわけがない。
亮の赤ちゃんを見て、楽しそうにあやしていたし、悠のところの子供にもなつかれて、うれしそうにかまっていた。
あいつ、結婚の『け』の字も言ったことないけど、
本当は、結婚したいんだろうなぁ、オ・レ・と!
そんなことを考えながら、また、いそいそと掃除を続けた。
3時に来ると言っていた聡美は、3時15分になっても来ない。
女にはダラダラなオレだが、時間には厳しい。
さっそく聡美の携帯に電話する。
「なにやってんだよ! おせーじゃねーかよ! ……えっ!? 大丈夫かよ」
電車の中で気分が悪くなって、そのまま目を瞑っていたら寝ちゃって、終点まで行き、折り返してきて、今ちょうど駅に着いたと言われた。
オレは心配になって、駅まで走って迎えに行った。
途中で聡美と会ったが、少し顔色が悪くて、なんかフラついていた。
「大丈夫かよ、具合悪いんなら、電話しろよ。
オレがおまえの家行ってもいいんだぞ?」
少し怒りぎみで言った。
「ごめん。でも大丈夫。誠に会うの二週間ぶりだったし、早く会いたかった」
などと、うれしいことを言ってくれた。
マンションに着き、聡美を少し休ませ、夕食はオレが作ることにした。
「ごめんね、誠…。不甲斐ない私を許してね…ガクッ」
と、言ったまま、オレが「ごはんだよ」というまでの二時間、あいつは爆睡していた。
聡美を起して、食事を始めて数分後。
「……うっ…」
聡美が口を押さえて、トイレに駆け込んだ。
「どうした!? さとみ!?」
「なんでもない…」
トイレのドアの向こうで聡美が嘔吐いているようだった。
なんか、オレの料理変だったのかなぁ…
吐くくらい不味かったか?
すんげー、心配!
しばらくしてトイレから洗面所に行き、一段落し、また食卓についた。
「大丈夫かよ、ほんとに…」
「うん、ごめんごめん。もう大丈夫! さっ、食べよう~」
あっ、もしかして……
オレは、思った。
「おまえ、もしかして、にん、にんしん…?」
「ぁあ?」
おもいきり怪訝な顔をされた。
「妊娠してんじゃ…」
オレは聡美の下っ腹あたりに目を向けた。
「はぁああ!? なにバカなこと言ってんのよ。妊娠なんてしてないわよ」
「でも…、うっ、ってなって、トイレ行って…」
「ちょっと、テレビの見すぎじゃないの? 大丈夫よ、妊娠なんてしてない。
たとえ子供ができたとしても、誠には迷惑かけないから、ね?
大丈夫だから……」
最後の「……」あたりの聡美の顔色が気になった。
結局、楽しみにしていた夜の絡み合いは、中止になった。
食事を終え、しばらくして聡美が先に風呂に入り、オレがルンルン気分でシャワーを浴び、スキップでベッドに行くと、聡美は、すでに爆睡していて、揺すっても、くすぐっても起きなくて、キスをしようと顔を近づけたら、「眠むいんだよ!!」と、無意識にしては、ドスの効いた声で、頬まっしぐらに平手が入った。
二週間ぶりだったけど(聡美とは!)、我慢し、ベッドにもぐった。
あっ、亮が言ってたなぁ、
玲子ちゃんが妊娠しているとき、昼間でもよく眠っている、って。
オレは寝ている聡美の顔を見て、真剣に考えた。
聡美は嘘をついている。
本当は妊娠していることを隠しているに違いない。
このままじゃ、いけない。
聡美のしあわせを考えてあげなきゃ。
自分が今まで、女にフラフラしてきたことを、深く反省した。
翌日は日曜日で、聡美は仕事が休みだったけど、オレは歌番組の収録が入っていて、午後には局に向い、聡美は、自分の家に帰って行った。
昨日より、顔色がよくなっていて、体調も良さそうで安心した。