表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
98/102

番外「亮くん」3

ゆきの三回忌を終えて間もない頃、ある飲み会の席に結莉さんも来ていて、同じテーブルで飲んでいた。

修平さんと婚約発表をする少し前のことだ。

女のケツを追いかけてばかりいる誠が恋の話をしだして、ゆきを忘れられないでいるオレに新しい恋をしろっていってきた。


「うん、それもいいかもね?」

結莉さんまでも言い出した。

酒が入っていたせいもあるけど、オレは少しだけ、頭に熱をおびた。

ゆきと結莉さんは、面識はなかったけど、ゆきとオレとのことは知っている。


「オレ、ゆきのこと忘れたくないから…、まだ愛してるし。

 あいつ、オレにさよならも言わないで死んだんだ」

言ったあとに、得意じゃない水割りを一気に飲んだ。


「さよならなんて、別れの言葉だよ? 言われなくてよかったじゃない?

 愛している人に、さよならを言われて別れるより、

 突然いなくなったほうが、残されるものには、しあわせかも、」

結莉さんが、そこまで言った時、オレはテーブルの上にあった誰かの水割りを彼女にぶっかけていた。


「わかったような口ぶりで、勝手なこと言うな!

 愛している人が側にいて、しあわせいっぱいの結莉さんになんて、

 オレの気持なんてわからない!」

周りは驚いて、怒鳴っているオレを制止させ、誠たちが、結莉さんに謝りながら、お絞りを渡していた。


「亮! 結莉さんは、」

悠がオレに何かを言おうとしている言葉を遮るように、怒るわけでもなく、叱咤するわけでもない結莉さんは、自分の顔を拭きながら、少し笑った。

「亮くん~、どうせ掛けるんだったら、テキーラにしてよね」


そして、続けた。

「何、一人で悲劇の人やって、幻想の中に生きてんのよ。

 あのね、彼女を忘れろって言ってるわけじゃないのよ?

 ゆきさんは、先に死んでいった。

 亮くんは、この世界でゆっくり生きてから来いってことよ。

 好きな人を作って、新しい恋をして…。

 亮くんにとってゆきさんが一番大切な人だったってことは、わかってる。

 でもさ、大切な人って、一人だけじゃなくてもいいんだよ?

 そのうち亮くんにも好きな人ができる。

 それは、ゆきさんが亡くなったから次の人へ、とかじゃなくて、

 亮くんの中に愛する人が増えるっていうことよ」


冷たい言葉が並べられていると思ったけど、その口調は、やさしかった。

オレはまだこの時、知らなかったんだ。

メンバーの中では、学生の時から結莉さんと知り合いだった悠だけが、知っていた。

結莉さんが昔に恋人と両親を一度に亡くしていたことを。


結莉さんの場合は、数時間前まで笑い合っていた大切な人が、なんの前触れもなく突然いなくなってしまった。

ゆきは、オレに少しの時間を与えてくれていた。

人の死に方に良いも悪いもないけれど、結莉さんはオレ以上に苦しんで悲しんでいたんだと思う。

結莉さんが、オレに言いたかったことがわかったのは、数年後だ。




あの頃、誰よりも大切だった人……

ゆき。

今日のこの白い東京も、明日には、いつもとかわりない景色に戻っているはずだ。



「おい、亮? 携帯なってっぞ~」

肩の脱臼癖が付いてしまっているキヨに呼ばれたオレは、窓から離れ、手に取った携帯の着信名を見て、携帯を開いた。


「どうした? ん? 7時ごろには帰るよ。玲子? 今日は寒いから、腹、気をつけろよ」






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【恋愛遊牧民G】←恋愛小説専門のサイトさま。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ