番外「キヨくん」2
月日が少し経ち、ゴーディオンは、マネージャーの相楽ちゃんが、持ってきた番組に出ていた。
半ビジュアル系バンドなのに、バラエティ番組で、お笑い芸人さんの人たちに交じっていた。
「取れる仕事はなんでも取る!」
最近、相楽ちゃんがモットーにしている言葉だ。
歌だけでやっていけてるのに、「もっと稼げ!」とのことだ。
今日の収録は、いろいろなゲームがあって、体を張る仕事だった…。
「えっ!! なんで僕がやんなきゃなんないんだよ!」
僕は楽屋で叫んだ。
ゲームというか、女子プロレスの人と戦うコーナーがあって、「女の体に触れる~」と、この仕事が決まって大喜びで、このコーナー出演を買って出た誠は、顔が命のビジュアル系にも関わらず、数日前、壁に顔面強打し、今日は大人しく、ひな壇に座っていなければならず、なぜか僕にその役が回ってきた。
「しかたないだろ、誠がこんなんなっちまったんだから」
相楽ちゃんが、誠の顔を差して言った。
「悪りぃ~ね~、キヨ。オレの代わりによろしく!」
誠に頭を下げられた。
「やだよ! 亮がやれば!?」
僕は亮を見た。
「あのさぁ、キヨちゃん? 世間のオレのイメージはどんなのかな? んん?」
亮が僕の肩を叩き、首を横に倒した。
「亮のイメージ? クールで無口…で、かっこいい」
「だろ? だからオレには無理だ! 悪いなぁ。
イメージ壊してファンの子たち、泣かしたくないからね」
「じゃぁ、悠がやれ!
おまえはボーカルで一番人気あるから、ファンの子大喜び~だ!」
悠を見た。
「はぁ? ふざけたこと言うなよ、キヨ。俺には、かわいい妻と子がいる。
怪我でもして仕事ができなくなったら、どーーーする!
死にたくねーし、かわいい妻と子が泣く! 悪いな!」
悠が僕の頭をクシャクシャとかき混ぜ、言った。
僕は死んでもいいと言うのか……悠。
僕にも父ちゃんと母ちゃんと弟という家族がいる…。
「……ちょっと待ってよ、みんなぁ~」
「キヨ、オレの分まで女子プロのみなさんと絡まってくれ、いや、戦ってくれ!」
おでこと頬に残る青丹を見せ付けるように、誠が僕に言った。
「ということだ! キヨ! おまえがゴーディオンの代表で頑張れ!」
変な仕事を取って来た相楽に、人事のように言われた僕は、ブルーな気持ちのまま、収録に向かった。
お笑い芸人さんの人たち数人と、スタジオに作られたリングに登った。
すでに眩暈に襲われ、ロープを握り締めた。
リングを囲むように出演者たちが座っていて、メンバーからの応援の声も聞こえた。
下りたい…、リングを下りたい…。
ドラムを叩いているので、体力維持のため、とりあえず体は鍛えてあるが、相手が女性であっても女子プロレラーのみなさんだ。
技を掛けられれば、一溜りもない。
恐い…。
女子プロレスラーのみなさんが、登場したと思ったら、いきなり次々と、お笑い芸人さんたちを投げ飛ばしていく。
悪役・ヒールのみなさんだった。
ゴングも鳴ってないのにぃぃぃぃいいいいい?
心なしか、お笑い芸人さんたちは、投げ飛ばされて、周囲が笑うと、うれしそうな顔をしている。
そんな余裕などない僕は、ロープを握っていたにも関わらず、覆面を被ったヒールのお嬢さんに頭を捕まれ、目と目が合い、「綺麗な瞳だ」などと、一瞬ボーっとしてしまい、彼女の「チッ」という舌打ちと共に、投げ飛ばされ、リング下に落ちた。
ずるい…、ロープ握ってたのに…、フェアじゃない…
本当に一瞬の出来事だった。
僕が、リング下に落ちたと同時に、正義の味方の女子プロレスラーのみなさんが登場した。
どうして…、どうしてもっと早く登場してくれないなんだぁあ!
放送作家のバカァ!
リング下のマットの上で、泣いた…。
僕は足を捻って、捻挫していた。
軽かったからいいものの、骨折なんてしてたら、ドラムが叩けない。
収録が終わり、楽屋で足にシップを貼ってもらったが、みんなにシップ臭いと、いやな顔をされた。
誰のせーだよ!