表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
91/102

番外「誠くん」

ギター担当の「誠」の話です。

オレは、仁王立ちの聡美の前で、正座をさせられていた。

原因は、いつもの浮気だ。

いや、ただの女遊び…これを浮気というのか…


今回は最悪だ。

現場を押えられた。

だって急に来るんだもん…


アパレル業界で働いている聡美は、展示会が近くなると、帰宅時間は、11時12時は当たり前で、オレとの約束もドタキャンが多くなる。


オレは、そこそこ人気のある『ゴーディオン』と言うバンドのギターをしていて、結構女の子にはモテる。

たまに他の女の子たちと、いろいろと楽しんでいたりして…。

お持ち帰りの女だって、どうせ彼氏がいたり、オレとは遊びだったりするから、お互い様で、いいのではないでしょうか~、などと、自分に言い訳して、遊んでいた。


意外に綺麗好きなオレは、お部屋のお掃除は欠かさない。

特に女が帰ったあとの、お掃除は念入りにやる。

証拠隠滅に力を注ぐ。

まっ、念入りに掃除する場所は、ベッドとシャワー室とトイレだけなんだけど。

部屋が綺麗なのは、いつものことなので、聡美が来ても何も思われない。


展示会近いしの聡美には、「今週は忙しいから会えない」と、言われていて、今日も友達に誘われていた飲み会に参加した。

とびきりじゃなかったけど、そこそこの女がオレの前の席に座って、なんとなく持ち帰ってきた。

その女は、結構な胸をしていて、ちょっと「ラッキー」なんて思って、オレは家に着くなり、胸一点集中でキスをしまくっていた。

いざ、出陣~と、思ったとき、間接照明だったはずの部屋が、妙に明るくなって、「えっ?」と思ったけど、女は目を瞑って「うう~ん」とか「ぁあ~ん」とか、色っぽい声出してて、そっちに気を取られて、聡美がベッドの横に立っていることには、全く気がつかなかった。


「入れるよ~?」

オレは、女にご陽気な声で言った。


「どこに!?」

「へっ?」

オレが女に言ったうれしそうな声の問いに返ってきたのは、冷たい冷たい本当にマイナス100℃の声に、氷ついたオレの体が、パラパラと壊れていく。



「どこに! 何を! 入れるの!?」

オレの頭の上に、なにか岩のような硬い声が落ちてくる。



目の前の女は、目を見開き、オレの顔ではない、丁度、オレの背後霊さんがいる辺りのところに視線を送っている。

女の視線を辿り、ゆっくりと顔をそちらに向けた。


……向けなきゃ、よかった。


慌てた…、オレは慌てて、女から即座に離れた。


聡美は、ベッドの女に服を渡し、「お帰りはあちらへ」と、落ち着いた声と態度で、ドアを指差した。

オレは、急いで穿いたパンツ一丁のまま、ベッドに腰掛け、下を向いて座っていた。


パタンと、女が閉めたドアの音がして、静かな沈黙の中、聡美は、低い声で言った。

「ここにお座り…」

自分の足元を指さした。

オレは、何も言わず、素直に正座をした。

顔を上げると、上の方から聡美が、オレを見下ろしていて、思わず視線を反らした。

おもいきり、目が泳いでしまい、聡美と目など合わせられるはずなどなく…


「いまの女性は、誰かしら?」

「……えー、あのー、あれは…」

口ごもっているオレに、また頭の上に問いかける。

「あの女性を愛してるの?」

「んなわけないだろ! ただの遊びだよ! 愛してるのは聡美だけだ!」

顔を上げて、目を見て、ここは強調した。

本当のことだし。

立ち上がろうとしたオレは、頭を押さえつけられ、また正座をさせられた。


「……愛してない女ともHできるんだ、誠くんは?」

「えっと、はい。それは、残念ながら男の悲しい性、生理的自然体欲情本能時の乱でして、

 性欲の煩悩も百八あるということで、」

わけのわからないことを言ってしまった。


「で、誠くんの性欲の煩悩は、今いくつまで鐘を鳴らして、 

 あと、どのくらい残ってるの?」

「えーっと、は、は、半分くらい…かなぁ~、なんかちゃって…」

「……そうなんだ。しょうがないよね? まだ半分なんだ」

え? 納得してくれちゃった?


「で? 誠くんは、あの女のなにが良くてHしようと思ったの? 

 どこが好きだったの?」

妙にやさしい声で訊いてくる。


「え? WゾーンとYゾーン」

オレは調子のって、言った。

「そうか、だからあんなにおっぱい、一生懸命吸ってたんだぁ」

ぇえ!? そんなとこから見てたの!?


「あの女、胸大きかったもんね…。誠くん、本当は胸大きい人が好きなんだよね?

 私、貧乳だし?」

「うん…、って、違う! ちがーーーーーう!」


そうなんだよ、本当は巨乳好きのオレなんだけど、聡美は少しというか、だいぶ小ぶりで、

スープ皿くらいで…、さっきの女は、どんぶりくらいで…ホクホク気分だった…って、

ダァァアアア! 今は、そんなことは、どうでもいいんだ!



「うん、わかった。もう、いいよ?」

聡美の言葉にオレは、顔を上げて、聡美を見た。

いつもだと怒り倒して、泣きまくる聡美が、涙も流さず、ちょっと微笑んでいた。



「もぉ、いいよ? これから誠くんは自由にしていい。

 私は、もう、ここには来ないから。ごめんね、邪魔しちゃって…。

 誠くんは、やっぱり一人の女と付き合うことなんてできないんだよ。

 私のことなんて愛してないこともわかったから、もう、ここには来ない。

 安心して他の女と楽しんでね…」


「え? なに、何言ってんの!? 聡美?」

オレは、いくら浮気しても、やっぱ聡美を一番愛していて、他の女とは全部遊びで、愛なんてなくて……

聡美から出てきた言葉にオレは、動揺しまくった。


「さ、聡美? まてよ、オレ、おまえと別れる気ないぜ!」

「誠くん…?」

「な、何? 何!?」

「今まで、ありがとうね。私は誠くんのことが大好きだった。でも、誠くんは…」

笑顔だったけど、瞳が悲しそうな聡美が、背を向けた。


「待って、待てよ、聡美! オレは、聡美のこと」

オレは、追いかけて、聡美の腕を掴んだ。


えっ? 

掴んだはずの聡美の腕は、掴めていなくて…少し身体が透けていて…


立ち止まって振り向いた聡美が言ったんだ。

「誠くん、ごめんね、私、死んじゃったの。今日は、さよならを言いに来た。ごめんね」

そう言って、聡美は背を向けて、オレの前から消えた。


「えっ、ま、まてよ! 聡美、待てよ!! さとみーーーーーーーー!」

オレは、追いかけようとした。

だけど、体が動かない。



「さとみーーーーーーーーー!」





痛っ…?


目の前には、フローリングの床があって…

ベッドから落ちていた。


あっ、もしかして、夢? だった?

夢かぁ~、なんだぁ~。

朝の陽射しが、眩しい…


え? 朝の光、じゃない…これは、ライトの眩しさ?


「これ、どういうこと? ぁああ? 誠くん!!!」

聡美の手に持たれたオレンジ色眩しいスタンドライトが、オレの目を照らす。

眩しさ直撃で、瞳が痛い…

そして、ライトの熱で、顔が熱い…



「……さ、聡美ぃ?」

オレは、前髪を掴まれ、起き上がらされた。

ふとベッドに目をやると、知らない女が、いや、知っている…飲み会でお持ち帰りした女だ。

裸で、シーツに包まったまま、聡美とオレを見ている。

聡美は、女に服を投げつけ、「帰れ!」と怒鳴り、追い出した。


玄関のドアが、パタ…ン……と閉まった。

シーンとした静かな夜中3時近く。



前髪を掴まれたままのオレの目の前には、聡美の顔のアップがあり、オレをさっき見た夢の続きに引き戻させる。

「誠くん…」

冷ややかな聡美の瞳と声。


「な、何!? おまえ、死んだとか言うなよ? オレ、ヤだよ? 

 聡美が死んじゃうのなんか。オレ、聡美のこと一番愛してるし、別れたくない!

 だから死んじゃったとか言うなよ……、消えたりするなよな!」


聡美が消えるんじゃないかと、オレは必死だった。

愛している女が、いなくなるなんて、そんな悲しいことはイヤだ。


「……なにわけのわかんないこと言って、ごまかそうとしてんのよ!!

 っていうか、何、私のこと殺してんのよ! 死んだ、死んだって!

 なんなのよ!!! そんなに私に死んでもらいたいわけ?

 おふざけじゃないわよ! まことーーーーーー!!」


左右から、強烈なパンチが飛んできて、オレは、左右によろめき、最後にもう一度、左パンチをいただき、すっ飛んだ勢いで、壁に顔面強打した。




い、いつもの、聡美だ…。

し、死んでない…、よか、っ…た…

聡美が、生きて、いて…よか……っ、………………た…ぁ…




そして、オレの意識は、消えた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【恋愛遊牧民G】←恋愛小説専門のサイトさま。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ