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90/102

(90)見上げた空は… (完)

悠汰の2歳の誕生日の日。

麻矢の実家に呼ばれた。

両親が海外に旅行に行っていて留守だから、結莉も呼んで、広いお家で、悠汰の誕生日パーティをしてくれることになった。

結莉は、少し仕事で遅れると連絡があり、前日から実家に戻っている麻矢が迎えに来てくれるのを、駅の改札で、悠汰と二人、待っていた。



この駅に来ることも、この改札に立つことなど、もう、ないと思っていた。


霧のようだった雨は、雪に、変わりはじめていた。

珍しい…東京に雪。


「ゆき!」

空を見上げた悠汰を見て、思い出してしまった。

初めて会ったあの雨の日。

雨が降っても思い出したことなんてなかったのに…

なぜ、今日、雪なのに思い出してしまったのか。

この駅に来たからかもしれない。


自分で自分が、おかしくなった。

「ママ、たのしい?」

「ん? ふふっ。うん! 悠汰と一緒だし、雪降ってきたしね? すごいね? 雪」

一人で笑っている私を変に思ったのか、悠太が、不思議な顔をしていた。

「もうすぐ、まーたんが迎えに来るからね? 寒くない? 大丈夫?」

「うん!」


私は、あの日と同じように、空を見上げた。

一人で見ていた雨の落ちる空。

今は、小さな手を握って、雪の降る空を、見ている。




俺は、雪の中を走っていた。


3日前、麻矢から連絡が来た。

「悠? 土曜日は、お家にいるの?」

「いるよ? なに?」

「ん? 別に? いるなら、いいわ」

麻矢は言葉尻を濁した。


そして、数分前、今さっき、その意味がわかった。

「悠? これから駅に行きなさい。彩香と悠汰が待ってるわ」

麻矢から、電話が入った。


携帯を放り投げ、麻矢が置きっぱなしにしていったピンクの傘を握って、

俺は、駅に向かった。

歩道に吹きつけ、俺に吹きつける雪の中を走っている。


ねぇ、彩香、知ってる?

あの雨の日から、俺の全てが始まったこと。

君に傘を差し出して、俺の恋は、始まった。

少し格好つけて、貸したピンクの傘。

君は驚いた顔をしていた。

俺は、すごく君のことをかわいいと思った。


次の日から、俺は、何度もあの駅に通ったんだよ。

電車になんて乗らない俺が、出かける時は、電車に乗ったり、

用もないのに駅のスーパーに行ったり、君に会いたくて、探したんだ。

ストーカーみたいだけど、俺は真剣だった。

だけど、会えなくて、見つけられなくて。


君が、麻矢と一緒に家に居た時、俺はどうしていいか、わからなかった。

君は酔って、頬に涙の跡を残して眠っていた。

あの時、神様に、麻矢に、感謝した。




駅に着く頃には、ぼたん雪になっていた。



小さな手を繋いで、雪空を見上げている彩香を、見つけた。

空を見上げている彩香、あの日と同じだ。

俺の息は、切れて苦しいけど、顔は、微笑んでいる。


彩香がいなくなった日から見ていた長くて辛い夢。

俺はその夢から覚めても、いいんだよね。

俺たちは何も、変わっていないよね。

もう一度、ここから始められるよね。



俺は、彩香の後ろに立った。

俺に気づいて、振り返った下から見上げる大きな瞳に、

「シー」と、静かに口に指を持っていくと、

同じように「シー」と、口元に小さな指を、あてる。


悠汰のママはね、悠汰のパパの一番大切な、大切な人なんだ。



俺は、彩香を後ろから静かに抱きしめたまま、ピンクの傘の柄を、彩香の腕にかけた。


「よろしかったら…どうぞ。3人じゃ、小さいかもしれないけど、

 彩香と悠汰と俺と、3人でいれば、雨でも雪でも、暖かいよ、きっと」




彩香を抱きしめていたあの頃と、変わらない大切なぬくもり。

俺たちは…何も変わっていない。



いつも俺は、君の傍にいるよ。

彩香、君がいつ振り返っても、俺はここにいる。


とても長い話数でしたが、読んでいただいた方、本当にありがとうございました。

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