(83)彩香、女三十
悠と出会ってから2度目の秋が過ぎ、冬が過ぎ、春を迎えていた。
11月から始まったゴーディオンの全国ツアーは、7月まで続けられる。
悠は26歳になり、私は30歳になり、麻矢は、予定より遅れたけど、梅の花が満開の頃
「女性」になった。
はぁぁぁ…もう、三十路…。
結婚なんて、どうでもいいんだけど、三十子だよ、みそ子…。
田舎の友達や学生時代の友達は、70%が結婚して、60%が子持ちだ。
私は30%に属しているが、私以外の30%はみんなバリバリのキャリアウーマンで手に職を持っていたり、自分で小さいながらも会社立ち上げていたり、カッコよく生きている。
私は相変わらず、悠のお世話と、タレント部で漫画読んで、お菓子をパクついている。
最近は、悠がツアーで東京にいないことが多いので、家の仕事もあまりなく、ファンからの贈り物やレター処理は、バイトを入れてしまったため、私の仕事も減り、日がな一日を隠居生活みたいに過ごしていた。
それも事務所の中で…。
誰も何も言ってくれない…
叱ってもくれない…
「加山さ~ん、何か仕事ください」
たまに訴えてみるが、
「彩香ちゃんに仕事回すと余計に仕事が増えるから…デスクでゲームでもしてて」
と、つれない返事をいただくことも、しばしば。
「じゃ、いっそのこと、首にしてください!!」
「あははっ~何言っちゃってるのよ! これがいなきゃいないで困るのよね~」
と、言われ、他のスタッフにも、うなずきながら、笑われた。
そして、今日もタレント部でお菓子をもらい、漫画を読む女三十。
出口なし…。
だけど、人間には転機というものがある。
櫻田彩香 30歳。
この年の夏、私は、自分で決めた道を歩くことになる。
それは…悠を愛しているから…
違う…全部私自身のために、決めたこと。
そう、思いたい。