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(81)悠、苦悩する

ここ2、3日で、風邪が悪化していた。

悠は夜遅いし、麻矢は仕事でいないから、うつる可能性も低く、それはそれで助かっていた。

今日も、悠は朝から撮影でいない。


マスクをつけて、ゲホゲホしながら事務所に下りて行った。

「あ~だりぃ~」

「大丈夫? さやちゃん。顔赤いよ」

デンジャラス・佳代が心配してくれて、おでこに、手をあてた。

「なんか熱あるんじゃないの?」

「んぁ? 大丈夫。薬飲んだし。へーきへーき」

私は、自分の席についた。

加山にも「今日はいいから部屋で寝てなさい」と言われたが、こういう時に限って自分の仕事が溜まっている。


頑張って夕方まで持ちこたえたが、フラフラになって行くのがわかり、早く上がらせてもらおうと、立ち上がった。


「か、かやまぁ~さ…ん、もぅ…だ、め…」 と、言って倒れた。

「ちょっ、ちょっとぉぉ、彩香? 彩香!?」

加山の声が、遠のいていく。


みんなが席を立ち、慌てた。

タレント部から男子を呼び、ソファに運んでもらい、救急車を呼び、病院に運ばれた。

ただの風邪であったが熱が39.5度もあり、一晩、そのまま病院に入院する事になった。

事務所に連絡を入れ、加山が、夜まで付き添った。





***************************



俺が仕事を終え、自宅に戻ったのは10時を過ぎていた。

いつも点いているはずのリビングの明かりが、点いていない。


彩香、出かけてるのかな? 風邪引いてるのに…


彩香の部屋をノックしたが、応答がない。

先にシャワーを浴び、リビングに座って待っていた。

11時を回り、12時近くになったが、彩香は帰ってこない。

携帯に電話をしてみたがコールはするが出ない。

何度かかけたが、同じだ。


もしかして…誰かとデート? うそだろ?


心配より不安の方が、増して行く。

麻矢に電話をしてみた。

今日は店のスタッフ会議のため、早くに家を出たので、彩香とは会っていないと言われた。

麻矢はまだ仕事中だったが、俺の心配する声を聞いて、これから戻ると、電話を切った。


麻矢の電話が切れ、すぐに相楽から電話が来た。

「相楽ちゃん? 彩香が」

「彩香ちゃんのことだが、風邪でぶっ倒れて入院したって、今さっき加山ちゃんから

 連絡が来た」

「入院!? どこ? 俺、病院行くから!! どこ!?」

俺は、あせって訊いた。


「おまえはアホか! こんな夜中に行ってどうする。病院に入れるわけないだろ!

 明日の午前中には戻ってくるから、家に居ろ!」

「じゃ、明日の朝、俺が迎えに行くよ。だったらいいだろ!?」

「おまえなぁ、おまえが迎えに行ってバレたらどーすんだ。

 おまえってバレたらどーすんだ!! ダメだ!」 

結局、病院も教えてもらえなかった。


なんか、自分がなさけない。

こんなに近くにいるのに、倒れるくらいの風邪にも気づいてやれなかった。

自分の彼女が入院しても、会いにも行けない、迎えにも行けない、病院さえ教えてもらえない。



なんで…彩香の傍に居ちゃいけないんだよ。

守ってやっちゃいけないんだよ。

俺、なにやってんだよ…

俺、彩香の何なんだよ…


1時を少し過ぎた頃、麻矢が帰ってきた。

気が動転していて、麻矢に電話するの忘れていた。


俺は、麻矢に彩香の入院の話をした。

そして、自分が何もできない悔しさも話した。

麻矢は、俺に暖かいココアを渡しながら、言った。

「悠、実はね、シメジ、この家を出て行こうとしてるの…よ?」


麻矢から聞いて初めて知った、彩香の気持ち。

ゴーディオンのため? 麻矢のため? 違う……俺のせい…。

俺は、彩香とずっと一緒にいられることだけでうれしくて、周りのことなんて気にしていなかった。

だけど、あいつは、ちゃんと俺のことを考えている。


最近二人だけで出歩くことも少なくなった。

手も繋がなくなった。

外にいる時は、いつも姉貴か付き人の真似をしていた。

何も気づいてやれていなかった。


「ねぇ、麻矢……俺、どうしたらいい? 彩香が出て行くって言ったら…

 どうしたらいい? 引き止めてもいいよね? 俺、彩香の傍にいてもいいよね」

麻矢は、返事をしてくれない。



その晩、あまり寝付けず、朝7時に、浅い眠りから覚めた。

麻矢は、すでに起きていて、8時になったら彩香を迎えに行くと、言った。

相楽に電話をして、病院を聞いたらしい。


「俺も一緒に行きたい、病院に」

「ダメよ。相楽ちゃんと約束したの、悠は連れて行かないって。

 それにあんたが行ったら、シメジが困るだけでしょ? 退院手続とかもあるけど、

 たぶん11時前には戻ってこれると思うから、家で待ってなさい」


わかってる、聞いてみただけ…。



麻矢が、病院に迎えに行っている間、吉田社長が来るのを待って、俺は事務所に行った。


社長室に入ると、吉田が言った。

「麻矢が行ってるんだろ? 彩香ちゃんの迎え」

「どうして俺が行っちゃいけないんですか?」

俺の態度は最高にふてくされている。


「……悠が、行ってどうする」

「俺、彩香と付き合ってるんだぜ! 彼氏なら当たり前だろ!?」


吉田は、コーヒーを一口飲み、溜息をついた。

「そうだな、おまえは、彩香ちゃんの彼氏だ。事務所も、おまえらの交際は認めている。

 何も問題はない。だけどな、おまえの仕事は特殊だ」

そんなことはわかってる。

人気商売だってことくらい、知ってる。



「悠はこの人と付き合っています。ファンのみなさんよろしくね、とは、いかないんだぞ?

 公にはできん」

「だったら…、だったら結婚したらいいんだろ? 誰にももんく、」

「悠!! いいかげんにしろ! おまえは今いくつだ。

 25歳で人気絶頂でまだまだこれからファンも増える。

 そんなヤツが今、結婚してどうする。

 ファンの子たちの気持ちやゴーディオンのために動いているスタッフのことも考えろ!」

「歌歌ってるヤツは、結婚もしちゃいけないのかよ!

 彼女が倒れても、なにもしちゃいけねーのかよ!

 20代で結婚してる芸能人だって沢山いるじゃないか! 修平さんだって、」

「おまえは、まだダメだ! 時期を見ろと言っているんだ!

 彩香ちゃんにだって気を使わせて、そんな男が勢いだけで結婚してなにになる!

 今はダメだ。我慢しろ…」


吉田との怒鳴りあいだった。

その声はスタッフルームの所まで聞こえていた。


そんな中、彩香が戻って来たと連絡が入り、俺は、吉田との話の途中で4階に上がった。


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