(77)麻矢の本名
仕事が終わり、住まい側のポストをチェックした。
一通の海外からのエアメール。
受取人は…「TO Mr.YASAKU ASADA」、上にはC/O 「MISAKA」
差出人は、病院…?
間違い郵便かと、思った。
でも住所は正しい。
「MISAKA」とも、書いてある。
とりあえず、部屋に持って行きダイニングテーブルに乗せた。
悠が帰ってきたので、手紙を見せて訊いた。
「ねぇねぇ、郵便物が来てるんだけど、間違いかな? でも美坂って書いてあるし」
「うん……これ、あはっ! 麻矢のだよ。最終手術のレターかな?
あいつも今年中には念願の女になれるんだね」
宛名を見て、悠は少し笑ってから、私に見せ直した。
「やさく あさだ だよ。麻矢の本名だよ」
はぁぁぁぁぁぁ!?
知らなかった。
いままで麻矢宛の郵便物は「美坂麻矢」しか見たことがなかった。
本名を使うものは、全て自宅に届くようにしていたが、自分への大切なものは、
「美坂 方」を付けて送らせていた。
麻矢の本名は『麻田 矢作』。
麻矢は本名を昔から恥ずかしがっていて、父親に訴えていたらしいが、こればかりはどうすることも出来ず、社会に出るようになると、必要以外は『美坂麻矢』を使っている。
麻田の「麻」 と 矢作の「矢」 を取り、『麻矢』。
「美坂」は、母方の旧姓だった。
「……ぶっ!!」
人の名前を見て笑ってはいけないことは、十分承知だが、思わず吹いてしまった。
あの顔と『矢作』は…ちょっと…バランスが。
それと同時に、リチャードの本名「尾張 一」も思い出してしまい、私の笑いは収まりが付かなくなってしまった。
「彩香…、笑ったら失礼だよ…ぷっ…」
と言う悠も、顔が歪んでいる。
悠は久々に聞いた麻矢の本名に、思い出し笑いをしていた。
本人がいないのをいいことに、失礼極まりない二人だ。
その頃、麻矢は店でクシャミを連発し、スタッフから心配されていた。
「このクシャミは、誰かが私の良くない噂をしているに違いないわ!
誰!!!突き止めてやる!」
麻矢の感は、人並み外れている。