(76)本当の気持ち…
パーティがお開きになり、俺は彩香と二人、家に帰った。
俺は、自室に入ろうとした彩香の腕を掴んだ。
「待って、彩香…」
まだ、ちゃんと言っていない。
彩香の心も訊いていない。
暴走夫婦がくれた今日を、俺は、投げ出したくなかった。
「さっきの俺の言葉、嘘じゃないから…、彩香のこと、愛してる」
俺は、彩香の目を見た。
少し上を見上げて、彩香が、俺に言った。
「……ありがとう、だけど…」
俺は、自分を押さえきれずに、彩香の言葉を塞ぐように、キスをした。
彩香は逃れようとしたが、力が入いらないようだった。
「俺のこと…好き?」
「…うん…好きだよ…でも…」
俺の彩香を抱きしめている腕に、力が入った。
「でも?…何が…不安? 年下だから? こんな仕事してるから…?
俺が彩香を好きになったらいけないの? 愛したらいけないの?」
「……悠…」
「俺、我慢してた。ずっと彩香のこと抱きしめたかった…。
だけど、彩香に思いを伝えたら、いなくなっちゃいそうで…、
彩香がいなくなるくらいなら、このまま、近くにいて、
ずっと、見ているだけでいようって、そう思って我慢してきた。
だけど…、もう無理、彩香を誰にも取られたくない。
俺以外の誰かと二人でいる彩香、見てるなんて…もう、いやだ…」
(彩香、素直になっても、いいんじゃない?)
彩香は、結莉に言われた言葉を、思い出した。
彩香の腕の温かさを、背中に感じた。
「悠…? 私でいいの…?」
俺は、何も言わず、もう一度、彩香にキスをした。
そして、この日、静かにベッドの上で彩香を抱いた。
つかめそうで、
届きそうで、
だけど、触れることの出来なかった彩香は、
今、俺の腕の中で、眠っている。