(75)結莉劇場…閉幕
二人きりになり、彩香が心配そうな顔で訊いてきた。
「どうして? なんで修平さん殴ったの?」
「……彩香のこと…もて遊んでる…から…」
「え? 誰が!? 私を?!」
「修平さんが…修平さん、結莉さんがいるのに、彩香のことも…」
俺は、ずっと下を向きながら、隣に座っている彩香に、話した。
「誰が言ったの? そんなこと…私が修平さんに遊ばれてるって」
「彩香、ぜってー修平さんにだまされてるって!
修平さんのこと好きになっても絶対、一緒になんてなれないよ…気がつけよ!」
「……気がつけよって、悠…あのさぁ」
「俺、彩香のこと愛してる! 修平さんになんて、渡さない!」
俺は、彩香を強く抱きしめた。
「ずっと好きだった。いつも…仕事してても、どこにいても彩香のこと考えてた。
誰にも触らせたくないし、俺の腕の中だけにいろよ!」
「ゆ…ぅ…」
彩香が俺の背中に腕を回そうとした時、ドアがノックされた。
開いた……。
結莉が、顔をちょこんと、出している。
「あっ、あはっあはっ! ラブラブお取り込み中? ごめ~ん。へへへ…へ…」
クロワッサン・EYEの結莉が、舌を出して、立っていた。
彩香は、俺から離れて、立ち上がり、
「結莉さん!! ちょっとこっちへ来て、ここにお座りなさい!!」
怒った。
結莉は、前髪を引っ張りながら、しょぼんとした顔で、彩香の前に座った。
「てへっ!」
「……てへっ、じゃないでしょ!」
「…ほほほほ~で、悠ちゃん、告白したの?」
「私たちのことは、後でいいです」
「あぃ……」
年上の結莉は俯き、彩香は腰に手をあて、説教を始めた。
「悠に何言ったんですか? 全部話なさい、結莉さん!お話!悠に何言ったんですか!」
「こ、こわいよ~、彩香ち・や・~・ん…………ごめん…」
彩香は、結莉を睨み、俺は、二人の様子をボケッと見ていた。
結莉は、今までの事を、俺たちに全部話した。
「ええーー!! 全部、う、うそーーー!?」
俺は眩暈がした。
「結莉さん、よくそんな芝居ができますよね! 修平さんをダシに使って!
どうせ、修平さん何も知らずに、結莉さん一人で勝手にやったことなんでしょうけど」
「す、するどいよね~彩香ちゃん~」
一生懸命結莉は謝っているが、そんなことより俺は、修平を殴っている。
「ど、どーしたらいい? 俺、修平さんのこと殴っちゃったよ!」
「あっ、大丈夫大丈夫、修平くんには説明して納得させてあるから!!」
結莉は、なぜかテーブルの上にあったチョリスを食べながら、涼しげな顔で言った。
ぜんぜん、反省の色がないというか、人事のような態度だ。
彩香は、いつものことながら呆れて、年上である結莉の頭を叩き、突っ込みを入れていた。
彩香も恐れを知らない女である。
Keiに対して、そんなことができる彩香を、俺は少し、尊敬してしまった。
「俺、謝ってきます! 修平さんに」
「あっ、私も行く」
彩香が立ち上がると、結莉が彩香の腕を引っ張って耳元で言った。
「で、あんたたちはどうなったのよ~」
「教えません!」
「ええーーーー、おケチィ~」
「っていうか、途中で入って来たの誰ですか?」
「……あっ…わたし…?」
俺たちは、隣の部屋に行き、深く頭を下げ、謝った。
結莉がやったことだからと、修平は笑って大人な対応をしてくれた。
修平は家に帰ってからの結莉の言うご褒美のことを考え、殴られたことは記憶から
抹殺したらしい。
結莉が、のんびりとフォークにチョリスを三本差しにして、部屋に入ってきた。
「うふん? なんか、わきあいあい? みんなぁ~~~」
「……」
顔の横でピースサインをする人騒がせな結莉を、みんなは深い溜息と共に見たが、
この人だけは別だった。
ウキウキ気分の修平が言った。
「結莉ぃ~~、こっちこいよ! 飲もうぜ~」
「うん! 修平く~~ん」
誰もこの二人には、ついていけない。




