(74)結莉劇場・修平、涙する
俺は、ルームで彩香と二人きりにされ、隣の部屋ではみんなが集まり、全く意味のわからない修平は、泣いていた。
「わけわかんないんだけど…誰かおせーて…俺、何で、殴られたの? ねぇね~」
「お~よしよし~、よくがんばったね~」
結莉は、修平を抱きしめて、頭をポンポン叩いた。
「結莉さぁ、なんか小細工しただろ?」
田辺に言われた。
悠と彩香をくっつけるために、自分自身が一芝居うったことを、
みんなの前で、結莉は、ボソボソと正直に説明を始めた。
「おほほほっほ~、そういわけで…なんか途中で計画が、
ちょっと変わっちゃったんだけど…
修平くんが殴られるとは思ってなかったもんで…てへっ」
「……」「……」「……」
みんなは、結莉の話に呆れたが、俺と彩香のためにやったことで、結果オーライだ!
と、能天気に喜び始め、結莉を褒めたたえていた。
が、一人笑っていない人がいる。
「俺、納得いかね…俺だけ殴られ損じゃん!なんも関係ないのに…」
修平の怒り収まらず…みんなに訴えていた。
「でもさ、さっきの光景…」
「悠くんが、修平を殴ったときか?」
「あっ、おれも思った。3年くらい前だったよなぁ。
修平が暴力事件で自粛した時、あの時とフラッシュバックしたよ」
「あんときは大変だったよなぁ~記者会見も開いて、謹慎自粛で修平、
香港へ勝手に行っちまったしさぁ」
「そうだよ、事務所が、一番大変だったんよ」
「修平も少しは、わけも分からず、いきなり殴られる人間の痛み、
わかったんじゃねーの? なぁ、みんな!」
「だよなぁ~」
以前、結莉がらみで修平の勘違いから、別のボーカルを殴り、謹慎処分を受けた過去を
田辺やリフィールのメンバーが、懐かしそうに話しだした。
「いやいや、そんな思い出話より、俺…俺、殴られた…」
修平は、みんなに同情を求めているが、蚊帳の外状態だ。
「修平! それは、結莉さんが言ってた寸劇だろ? 芝居だよ芝居~」
「そうだよ、役者だよなぁ、修平~。ドラマのオファーなんか来ちゃったりな!」
「殴られ役専門の役者か? ははは~」
みんなは、笑い合っていた。
「…えっ、み、みんなぁ~~うっ…」
修平は結莉を見て、涙ぐんだ。
結莉は、微笑みながら修平の耳元で囁いた。
「今日は大変良くできました。帰ったらご褒美あげるからね!ちょっと大人しくしててね」
超エロ声で言った。
―――ま、マジィィィィ、ご褒美って…? うほほほほ~~~い。
立ち直りの早い単純な修平は、結莉を見て、ニマニマとした。
涙は消えている。
すでに心は「ご褒美は何かな?」で、埋まっている。
「私、ちょっと隣、行ってくるね」
結莉は、隣の部屋に向かった。




