(73)結莉劇場・俺の彩香に手を出すな!
仕事で遅れた俺たちが「W」に着いたころには、パーティは盛り盛りに盛り上がっていた。
店の入り口の大きな看板を見て、メンバーは大笑いしていたが、俺は修平に同情した。
結莉に遊ばれている…。
それに、あの看板の字は、麻矢の字だ。
あいつは習字の師範をもっている。
一通り顔見知りに挨拶を終え、彩香を探した。
人が多すぎて見つけられないでいると、結莉が、俺に声をかけて来た。
「ちょっと…いいかなぁ? 悠ちゃん…」
なんか、少しだけ悲しそうな顔をしている結莉に、VIPルームの一室へ連れて行かれた。
ためらいがちに、俯き加減の結莉は、話し出した。
「悠ちゃんさぁ、あのね、修平くんのことなんだけど…」
いつもの明るさが全くない。
「やっぱり、私、修平くんと離れた方がいいのかなぁ、なんて考えちゃってるんだぁ」
「え? どういう意味ですか!?」
俺は結莉の口から出た言葉に驚いた。
別れることなんてない、と記者会見で言っていたのに…
結莉はずっと下を向いたままだ。
「んーとね? やっぱり、…修平くん、浮気…してるかも」
「ええー! そんなこと…そんなことないですよ、絶対!
だって修平さん、結莉さんだけじゃないですか!
いつもいつも引っ付いてて、結莉さんといる時の修平さん、しあわせそうで…」
「ん~、でもねぇ~」
結莉は、ルームから見下ろせる1階フロアのダンスホールに、視線を落した。
俺は、つられて、結莉の視線の先を見た。
……え?
俺が視線を結莉に向け直すと、結莉も俺の顔を見てうなずいてから、シュンとした。
もう一度ダンスフロアに、視線を落した。
フロアを見た俺の顔が、歪んでいく。
え!?ええ? 彩香? 彩香と修平さ…ん……?
そこには、彩香と修平のツーショットがあった。
「あの二人仲いいのよね…。なんかさぁ、最近…修平、冷たいし。
この間も外泊したし」
「が、外泊って…」
「先週の土曜日…帰ってこなかったの…修平くん…」
先週の土曜日って、彩香が友達の所に行って帰ってこなかった日だ!
俺は、手で顔を覆った。
本当は、先週の土曜日は、修平はレコーディングでメンバーとスタジオに入っていた。
そのため結莉は、彩香と麻矢を家に呼んで、楽しく三人で酒を浴びていた。
だけど、俺はそんなことは知らない。
「ど、土曜日…?」
「修平くん、愛しているのは結莉だけとか、さんざんみんなにも言ってるけど、
本当は私の財産狙いなのかな~ってことも、考えちゃってきてるんだ、実は」
「……」
「やっぱさぁ、年上より若い子の方がいいよね…
もうさぁ、離婚して修平くんに財産分与して、
好きな人と幸せになってもらおうかなぁ~なんて…」
「…………」
「別に私お金なんていらない……え”!?あれ~~?ちょっと、悠ちゃ~~~ん」
結莉が話している途中で俺は立ち上がり、ルームを出て、1階フロアにいる彩香と修平のところに走って行った。
うそだろ? 二人の写真は誤解で…、何にも関係ないって…
それに今日は、「修平浮気疑惑解決記念パーティー」で…
俺は、修平の前に立ち、修平の腕を掴んだ。
「修平さん! 彩香から離れてもらえませんか?!」
「悠、どうし」
と、言っている途中で、修平はフロアに倒れた。
俺は、修平を殴っていた。
上のVIPルームからは、結莉が、ガラス越しに見ていた。
「俺の彩香に触るな! 結莉さんだって泣かして、修平さんがそんな人間だとは
思わなかった!」
周りのスタッフに押えられながら怒鳴っている俺を、修平と彩香は唖然と見ていた。
上で見ていた結莉が、慌てて降りてきた。
「あちゃちゃーーー」
舌を出しながら、頭をかいている。
「結莉ぃ…」
修平が、わけがわからないという顔をした。
「えーーーっと! はい!
そこまで~、悠ちゃんと修平くんのお芝居のリハーサルはここまでで~す」
結莉はパンパンと手を叩き、ニンマリとした笑顔で、みんなの顔を見た。
「あっ、じゃー、悠は、あっち行こ~な~」
手馴れた様子でプロデューサーの田辺が、俺を連れ、
「じゃー、修平も、あっち行こーーーなぁ」
修平のマネージャーが修平を連れて、別々のVIPルームに連れて行かれた。
「なんか、どこかで、いつの日か見たことのある光景だ!」
「これは、デジャブと呼んでいいのだろうか?」
リフィールのメンバー他、数人の人たちが、口々に言っていた。
結莉は、彩香を連れて、俺がいる部屋に入ってきた。
「悠ちゃん? 言いたいことがあるなら暴力じゃなく、言葉で伝えなさい」
「彩香も、そろそろ素直になってもいいんじゃない? マスク、外しなさい?」
結莉は、俺と彩香にそう言い、部屋を出て修平のところにいった。