(72)リチャード登場!
修平と結莉の会見から10日ほどたった頃、結莉がパーティーを開くといい、
私とゴーディオン、麻矢や事務所スタッフも招待された。
何のパーティーか聞かされていなかったが、クラブ「W」に行った。
「W」に着くと、店の前に大きな看板が建てられていて、看板のその文字は墨で書かれた、
達筆な爺さんの様な字だった。
どこかで見たことのある字だ…
「第1回 リフィール・修平、浮気疑惑解決記念パーティー会場」
……こんなに大胆に看板を掲げていいのだろうか。
第1回ということは、この先もあるとでもいうのだろうか…
たぶん結莉がふざけて建てたものだろうけど、通り過ぎる人たちが見ていく。
私は事務所スタッフと一緒に入り口で受付を済ませたあと、結莉に挨拶に行くと、麻矢がリチャードを連れてきていて、「彩香に紹介したい」と言っているから、いつものVIPルームに行くように言われた。
私は、初めてご対面するリチャードにワクワクしながら、ルームのドアを叩いた。
「どうぞ」
麻矢の声が聞こえた。
「麻矢さ~ん、こんばんは!」
ドアを開けながら挨拶をしたが、リチャードらしき人は麻矢の周りにいない。
外国人らしき人がいない。
日系らしい人も。
イケメンは何人かいるが、知っている顔ばかりだ。
ただ……
「あら~シメジ。ねぇねぇ、この子よ、修平の浮気相手~櫻田彩香!」
って、私は修平さんの浮気相手じゃないし…
麻矢が、隣に座っているサラリーマン丸出しで、黒ぶちの眼鏡をかけた、座っているので身長はわからないが、ずんぐりむっくりっぽくて真面目一筋っぽい男性に、私を紹介した。
「こっち、いらっしゃいシメジ」
麻矢は私を手招きし、横に座らせた。
「初めまして。いつも麻矢ちゃんから、お話は聞かされていますよ、彩香さん」
黒ぶちさんが私に言った。
「は? へ? はぃ…?」
誰…あなた…
私は、作り笑いで首を横に倒した。
「…何! ボケッとしてんのよ、シメジ!リチャードよ、私のダーリンのリチャード!」
…………そう…この人がリチャードさんなんだぁ~…え!? ええーーー!!
金髪じゃない!! 彫が深くない!! 鼻、丸いーーー!!
なんの落ち度もない日本人顔!!!
私の頭の中は、とても失礼丸出しな言葉が、流れていった。
「ちょっと! もぉ~リチャードがいい男だからってぇ、なに見とれてるのよ!」
麻矢が、私の頭を叩いた。
「……あっ、し、失礼しました。櫻田彩香です。
麻矢さんにはいつもお世話になっております。
わた、私もリチャードさんとのノロケ話はいつも聞かされて、おり、おります…」
かしこまりつつ、挨拶をした。
正直驚いた。
麻矢の好み…
たけど、その後、リチャードと話していくうちに、私は麻矢をもっと好きになった。
リチャードは、穏やかで、やさしい瞳で人を見つめ、安心感を与えてくれる人だった。
麻矢は心の目で、迎え入れる人を見極めえている。
最初に出会ったとき、リチャードは、麻矢が男と言うことを知らなかったらしい。
私もそうだった、ずっと女だと思ってたし…
麻矢自身が、リチャードに惹かれていって、次第にリチャードも麻矢を気になりだした。
「麻矢が自分みたいな男に好意を持ってくれるわけがない」
と、リチャードは思っていたらしい。
だけど、リチャードは勇気を出して告白した。
麻矢は、カミングアウトするかどうか、迷ったという。
黙って付き合うこともできたが、自分を知られてしまって悲しい別れをするより、
振られてもいいからお友達でいいから離れたくなくて、覚悟をして本当のことを話した。
リチャードは一瞬、目が点になったが、急に笑い出し、
「そんなの関係ない。麻矢は麻矢だろ?」
そう言って、麻矢を抱きしめてくれた。
「彩香も私が本当は男ってわかった時、抱きしめてくれたでしょ?
彼もそうだったのよ。私の人を見る目は間違ってないわね、うん!」
麻矢は、なにか満足気な顔をして笑った。
ちなみに、リチャードという名は、仕事で海外に行くことが多く、外国人相手に仕事をする上でイングリッシュネームの方がいいと、麻矢がつけたらしい。
リチャードの本名は「尾張 一」
「おわり はじめ」
おもわず、水割りを吹いてしまい、麻矢に怒られ、こめかみをグリグリされたが、
リチャードは笑ってくれていた。




