(71)今度は彩香と修平…?
俺が東京に戻る日の朝、修平は、釈明記者会見の打ち合わせをしていた。
午後に、九州から戻ると、彩香は家に、いなかった。
彩香は、結莉に呼ばれ、結莉のマンションに来ていた。
「結莉さ~ん、外すごいマスコミですよ~」
「え~、まじまじぃ? 私、昨日からここにいっからわかんない。テレビでさぁ、
うちのマンション映ってたのは見た!」
結莉は、修平のことより自分のマンションが映っていたことで喜んでいる。
彩香は、修平に少しばかり同情した。
「修平さん、これから記者会見ですね。たいへんですよね。というか、
もともと結莉さんが、私の目のゴミを取ってくれればよかったんですよ!」
「ええーー。あんたが目にゴミなんて入れなきゃよかったのよ!」
「はぁ? 私ですかー?」
「あたりまえじゃん!」
「…結莉さん~ずっこい!」
「あっ、なによ!」
姉妹喧嘩のようなものが、始まってしまった。
☆☆☆☆☆
3時になり、修平の記者会見が始まった。
ワイドショーの時間と重なっていたので生中継で始まる。
俺は自宅で、結莉、彩香も事務所スタッフみんなが、それぞれの場所で見ていた。
次々と投げかけてくるレポーターの質問に、修平は、いつもと違う真面目な顔で
答えて言った。
週刊誌の記事を全て否定し、自分が愛しているのは結莉だけだと、言い続けた。
離婚に対する質問では、レポーターに殴りかかりそうな勢いで答え、周りのスタッフを一瞬あせらせた。
「あら! やだ! 修平くん、いつもにまして、カッコイイじゃな~い」
「修平さん、いつも、あ~ゆ~真剣な顔してれば、いいのにね?」
「本当よねぇ。あっははは~」
結莉と彩香は、のんきに会見をみて、真面目な修平に、大受けしていた。
かわいそすぎる修平…である。
結局、修平は、会見の途中で、一部記者からの、わざとらしい皮肉にも似た質問に、
怒り爆発になる寸前、マネージャーとスタッフに付き添われ、その場を立ち去った。
事務所にもどり、
「うぉぉぉぉーーー、ムカつくぜーーーー!」
修平は、雄叫びをあげていた。
「なんで俺と結莉が、別れなきゃなんねーんだよ!!」
周りに八つ当たりを始めた。
「おいおい、落ち着けって!
マスコミの中には、おまえのことをよく知っている人もいるし、
悪いようには言われないよ。
だいたいおまえが結莉ちゃんと離婚するなんて、誰も思っちゃーいないって」
社長の銀二に、なだめられた。
「修平は離婚なんてありえない、って言ってても、結莉さんがね~」
メンバーのタカが言うと、
「結莉さんが?」
メンバーの利央が訊いた。
「結莉さんから離婚を言い渡されるってことも………うぐっぐっ、ぐほっ」
修平が、タカの首を本気で、絞め始めた。
「おいおい! やめろって! 手放せよ、修平!」
周りが、修平を押さえた。
「変なこというんじゃーねーぞ! タカ!! ぶっ殺すぞ!」
修平の目は、血走っている。
「タカ、おまえも、今の修平に冗談はきかねーんだから、やめとけよ!
修平も落ち着け、おーちーつーけって!」
利央に言われ、怒り狂う修平は、力づくで、椅子に座わらされた。
「ったくよー、なんでこうなるんだよ! うっ…うっ…」
「ありゃりゃ、今度は泣き始めちゃったよ…」
社長の銀二が呆れて笑った。
俺は一人、修平の記者会見を見たあと、テレビを消して、顔を膝につけて体育座りで
床の上で気落ちしていた。
本当に修平さんと彩香は、関係ねーのかよ…。
彩香はどこいってんだよ! ったくよー!
近くにあったクッションを、テレビに投げて、また膝を抱えた。
☆☆☆☆☆
夜10過ぎ、自分の部屋にいると、廊下でカチャカチャと物音がし、部屋を出た。
帰ってきた彩香が、リビングに入るのが見え、追いかけて、声をかけた。
「今、帰ってきたの…?」
「あっ、悠、九州お疲れ~」
何事もないかのように、彩香は言った。
「週刊誌、見たし…修平さんの記者会見も…見た」
「あっ、昨日今日と大変だったんだよ~今日も結莉さんの家に行ってたんだけど
明日は結莉さん、会見開くんだって」
「結莉さん…ち? 今日、結莉さんと会ってたの?」
「そうだよ」
「相楽ちゃんが言ってたけど…車の中に結莉さんもいたって…」
彩香は、相楽が話してくれたことと同じ事を、笑いながら話してくれた。
写真を撮られて、大受けして大喜びな結莉に対し、修平は落ち込み、泣いていたことも。
「ホントあの夫婦おもしろいったらありゃしない~…って、どうしたの? 悠?」
本当だったんだ。
修平さんとは何にも関係ないんだぁ、彩香。
彩香の口から事実を聞いて、それも何事もないかのような口調で話す彩香を見て
俺は、下を向いて笑った。
「ん? なに一人で笑ってんのよ、気持ち悪いわね~。
悠って、たまに一人で、いきなり笑い出すよね…ふふふ~」
「ははは~」
「や~ん、なに? 気持ち悪いなぁ」
彩香は不思議そうにしていたが、俺はホッとして、笑いながら言った。
「ねぇ、腹減った」
「え? 食べてないの?」
「朝からなんも食ってねー」
夕べから何も喉に通らず水しか飲んでいなかったことを思い出した。
急に腹が、減ってきた。
「どうした? 調子悪いの? ねぇ」
彩香は心配そうに俺の顔を覗きこんだが、ハードスケジュールであまり食事が出来なかったと、嘘をついた。
「急いで作るから、何がいい?」
「なんでもいい。でも、スンゲー腹減ってる! 死にそーに腹減ってる!」
☆☆☆☆☆
次の日、午前中に結莉は、記者会見を行なった。
囲み会見で、場所は、修平の所属する事務所前。
俺と彩香は二人で、午後のワイドショーで流された会見を、部屋で見ていた。
「あっ、どうもどうも! このたびは、うちの主人が、お騒がせいたしました。
えへへへ」
最初の一言が、これだった。
会見は修平の時と違い、ほのぼの雰囲気になって行き、結莉がふざけた事を言うと、
隣の女性マネージャーが、「いいかげんにしなさい!」と結莉の頭を叩き、
なぜか、どんどんと、お笑い会見になった。
海外からの記者も含まれていたので、結莉は英語での受け答えもしていたが、どれも軽い調子で、おちゃらけ、記者たちを笑わしていた。
ただ、結莉が最後に、とびきりステキな笑顔で言った。
―――なにがあっても、私たちは離れるということはないです。
私は、次に生まれ変わっても、修平さんと一緒になります。
そう言いきった。
「結ぅぅ~~~~莉ぃぃ~~~」
会見を2階の窓から見ていた修平が、窓を開け叫んでしまい、メンバーに窓から引きずり離された。
「うわっ! 何すんだよ…」
窓から修平が、消えた。
「……」「……」
カメラもレポーターも、窓の方を見て、無言になった。
「あっ、いつもああですから! あの人! かわいいでしょ?」
結莉が言うと、
「結~~~~莉ぃ~~~~~」
修平が、また窓から顔を出し、今度は手を振り、叫んだ。
メンバーたちが、修平の頭を叩き、窓から離し、レポーターたちに丁寧なお辞儀をし、
ガラガラパシッ!
と、窓を閉め、カーテンを閉めた。
「……」「……」
「あっ、リフィールって、本当は、コミックバンドですから!」
結莉の会見はよくわからないまま終わり、修平の叫びの部分はオンエアされ、
視聴者に笑われていた。