(69)同じ気持ちなのに
「男いらない」宣言をしたにもかかわらず、毎日、悠の側にいると、心が切なくなってくる。
私は、リビングの床に座り、洗濯物の山をたたみながら、センチメンタルに考えていた。
馬鹿だよなぁ、私。
なに悠のこと好きになってるんだろう。
深沢さんに付いてイギリス行っちゃえばよかった…
深沢のプロポーズを受け入れなかった理由。
あの時には、もう悠のことが好きだった。
いつから好きになったんだろう…悠のこと。
叶わない恋なんてするもんじゃないなぁ。
なんで、知り合っちゃったんだろう、悠と…
はぁぁぁぁぁ……辛い…。
いつになく、なぜか切なさ倍増の気持ちに耐え切れなくなり、私は洗濯物に顔をうずめ、
溜息をついた。
「…………あのさぁ、」
悠が、急に後ろから声をかけてきた。
「びっくりした!」
私は、すぐに顔を上げた。
「……おまえ…変態? 俺のパンツ何抱きしめて、匂い嗅いでんの?」
え゛え゛!!?? んげげ!!
私は、たたんでいるはずの悠のグレーのボクサーパンツに、顔をうずめていた。
「…ちょっ、ちょっと、匂いのチェック! ほ、ほら、女の人に嫌われたら困るでしょ?
悠くんくさ~~~い、なんて、ベッドの中で…言われたら……困る…」
はぁぁぁ…何言ってんだろう、私。
私は、パンツをそそくさとたたみながら、自分のアホくささにガックリと、肩を落した。
「俺…、俺、女とかいないから…」
「ん、そっか。じゃ、臭くてもいいよね…」
そうだ、最近の悠は、ぜんぜん女の噂を聞かない。
飲みにもあまり行ってない。
まだアルバムも仕上がってないし、仕事忙しいからなぁ。
「ねぇ、携帯換えてないんだろ? アイツから…電話来てないの?」
携帯番号を換えようと思っていたが、換えたら換えたで、いろいろめんどくさい。
私は、そのまま使っていた。
悠の言う「アイツ」、孝志からは2度ほど、着信があったが、私は出ていない。
悠には、話していなかった。
「うん、あれ以来ないよ。コンクリート詰めにされるのが恐くなったんじゃない?」
「あはは、彩香恐~もんなぁ。恐妻家になりそうだもんな」
「もう誰も私を嫁になんて貰ってくれないから、いいよ」
「……俺…貰ってやろうか?」
「へ?」
「彩香のこと、嫁に貰ってやろうか?」
ニッコリ笑いながら、冗談でもそう言うことを言うのは、止めてもらいたい。
胸がキュンとするし、余計切なくなるし、空しくなる。
「……むふふふふ~。結構でございます! ボランティア発言してないで、
悠は、ちゃんと特定の女性見つけなよ?」
半笑いの私は、一つ溜息をついて、洗濯物を部屋に、置きに行った。
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彩香がリビングを出て行った後、俺はソファの上に、寝転んだ。
ぜんぜん相手にしてくれてないや…。
やっぱ年下って、ダメなのかよ。
年齢なんて縮まんねーよなぁ……精神年齢は絶対俺の方が上なんだけどなぁ。
俺は最近、前にも増して彩香への思いを募らせていた。