(65)結莉の置き土産
次の日の朝、修平と結莉の会話にへこんでいる上に、寝不足気味の俺は、
フラフラした足取りで、みんなとジョギングをしていた。
雅俊が一番気になるが、修平さんが言っていたモデルヤロウも気になる…
あ”ーーーーどうしよぅ~~。
頭がクルクルしてきた。
俺は…俺は彩香が好きなんだ…誰にも取られたくなんかないんだ!
「あっ、またフラフラしてる…」
「ああ? また、さやちゃんか? 原因は」
「今度はなんだ?」
「なんもないだろ?」
「落ち込む原因なんてないよなぁ?」
メンバーは、首をかしげていた。
が、田辺だけは、理由を知っている。
―――結莉…変なみやげ話、置いていきやがって、しょうがないなぁ。
悠、落ち込みすぎっだっつーねん。どうするかな?
頭を悩ませていた。
「相楽君、ちょっといいか?」
朝食を終えた田辺が、ミーティング室に、相楽を呼んだ。
「悠のことなんだけど…」
「すみません、今日もなんか、おかしいみたいで…」
相楽が頭を下げた。
「あー、いいんだ。原因はわかってるから」
「はい?」
田辺は、昨日の結莉の置き土産の話をした。
相楽は、また何度も頭を下げた。
「そんなことくらいで、あいつは…本当にすみません!」
「いいって、俺は修平くんで慣れてるから。結莉もまたなんか企んでだろうなぁ。
ははは~。あの二人、ほっとくと、ろくな事しないからなぁ」
「でさ、明日さぁ、休みにしよう。悠にデートのプレゼントでもあげないか?」
「デート?」
「水族館でも連れて行ってやろうよ、で、二人置き去り~ってのどう?
事務所的にはやばいかい?」
「まぁ、ヤバイといわれたらヤバイですが…
でも東京でも二人で歩いてますからねぇ。
大丈夫でしょう。悠の調子が戻るのなら」
次の日は全員休みになり、相楽は他のメンバーと打ち合わせをして水族館までは一緒に行って、あとはハグれてしまったことにするという、ものすごく子供じみた、安易な作戦を考えた。
☆☆☆☆☆
翌日、水族館に着くとメンバーと相楽は、10分ほどして、くもの巣を散らばした様にわざとらしくバラバラと、はぐれて行き、迷子になったフリをした。
携帯で連絡をとりあったが、「各自好きなところを見る!」ということになり、
俺と彩香は二人になった。
メンバーと相楽は、密かに別の場所で落ち合っていた。
彩香はみんなのことを心配していたが、後で待ち合わせをすることになったと言うと、アザラシやペンギン、イルカショーも見たいと、俺を振り回した。
ポンポコポンランドもそうだったけど、なんかデートみたいで嬉しい。
昼過ぎ、相楽に電話を入れた。
「昼飯どうする? どこかで待ち合わせ…え? ええ!? 大丈夫なのかよ。
……っだ? 相楽ちゃんそれって!…え? もしもし? おーい…」
切れた携帯を見つめる俺に彩香が聞いた。
「どうしたの? お昼どこで待ち合わせ?」
「え? あー、んとね、誠が腹痛起こしたから、今、宿舎に戻ってる途中だって…」
「ええ? 大丈夫なの? じゃ、私たちも帰ろうよ」
彩香は誠を心配していたが、相楽に、「誠はみんなが付いているし、せっかくだから二人で遊んで来い」と、言われたと言うと、彩香は嬉しそうな顔になった。
―――悠か? ちょっと誠が腹痛起こしさぁ、今、宿舎に帰ってる途中なんだけど、おまえは彩香ちゃんとゆっくりして来い。デートだデート! 二人で楽しくデートして来い。あっ、夕食も食って来い。どうせ帰っても、今日の飯はないぞ~。あっ、なんならどこかにお泊りなんてのも、今日は許すぞ~ってことだ、じゃ!!―――――――
電話の向こうの相楽の言葉である。
バレバレの誠の腹痛の嘘。
俺を元気づけようとしてくれているのが、わかった。
ものすごく、いい連中に囲まれてしあわせだぁ。
感謝。
俺と彩香は、水族館を見て回り、時々、ファンの子にサインをねだられつつ、
閉園まで過ごした。
メンバーと相楽も、一日中、水族館で楽しんでいたが、広いこの水族館で俺たちと
会うことはなかった。
夕食は、彩香が沖縄料理を食べたいといい、宿舎に一番近い繁華街までタクシーに乗り、運転手さんにおいしいお店を教えてもらい、そこに連れて行ってもらった。
その店は庶民的ではあるが、運転手さんお薦めとあって、料理も泡盛もおいしく、
お店の人も温かい人たちだった。
お客さん同士も打ち解けて、俺のことも知っていてくれて、
だけど特別扱いもせず、わきあいあいと飲んで、さわいで、楽しい食事をした。
どうして沖縄の人ってこんなに優しい笑顔と心を持っているのだろうか。
飛行機が嫌いな彩香も、また絶対来る、と言っていた。船でだけど…。
「沖縄サイコ~さ~」などと、愛嬌を振りまいていた彩香は、泡盛を注がれては飲み注がれては飲みをしていたら、完璧にダウンした。
お店の人がタクシーを呼んでくれて、食事代もおまけしてくれて、みんなが外に出て、見送ってくれた。
一応、かすかな意識の彩香は、沖縄の人にも理解できない沖縄弁で挨拶をし、
手を振り、笑われながらタクシーに乗り込み、俺たちは宿舎に戻った。
俺は、宿舎近くになり、亮に連絡を入れた。
「あっ、亮? 悪いけどちょっと玄関まで来て、彩香が酔っちゃってさぁ」
亮は鞄と事務所のみんなに買ったお土産を持ち、俺は彩香をおんぶして部屋に行った。
「すげー完璧熟睡! ~ははは~」
「がははは~。悠…今日はたのしかったか?」
「え? あ、うん!」
「そっかーよかったな!」
亮が、やさしく笑った。
「みんな、わざとだろ…誠の腹痛なんて、嘘だろ?」
俺が訊くと、亮は髪をかきあげながら、クシャっとした顔をして言った。
「え? いや、うそじゃねーよ。アイツ、下痢だよ、下痢。
明日から『げりお』と呼んでやれ…」
彩香をベットに寝かし、荷物を置いた亮は、部屋を出ようとした。
「亮…」
「ぁあ?」
「さん、きゅう…」
「ん? ははは~~なんだよ、おやすみ」
亮は照れくさそうに足早に、ドアを閉めて出て行った。
俺は、彩香の靴を脱がし、ちゃんとベッドに寝かせた。
「ん~~~、んが!」
彩香が寝返りをうつと、俺の手に彩香の手が重なった。
そのまま動かず、彩香の寝顔を見ていた。
彩香の寝顔を見るのは何度目だろう。
飛行機の中のは…寝顔とは…言わないよなぁ。
こいつ、俺のことをどう思っているんだろう。
気にしていてくれてるのかなぁ。
俺、なにウジウジしてんだろう。
好きと言ってしまって、そこで終わったら?
彩香が、いなくなる恐さが、俺を先に進ませては、くれない…




