(52)イブは彩香と…
悠に電話を切られ、もう一度かけたが悠は出なかった。
結莉のところに行き、「悠が迎えに来てくれる」と言う事を伝えると、笑っていた。
悠が、こちらに着いたら結莉と修平にあいさつするつもりだと思う、と告げたが、
「あ~いいからいいから、今度また飲もうって言っといて。悠が来ると修平に捕まって
またメチャクチャになるから」
結莉にそのまま帰るように言われた。
「もうすぐ、店に着く」
と、悠から連絡が入り、結莉に挨拶した後、店を出た。
私が店の前に立っていると、悠の車が止まった。
やはり、悠は結莉たちに挨拶をすると言い、車を降りかけたが、結莉の言われた通りに伝えると、悠は、何かを呟いた。
「感謝、結莉さん」
「ん?なに?」
「別に…」
悠は笑って私を見た。
「ありがとう、迎えに来てくれて」
「うん!いいよ、別に。しょうがねーし~」
……しょうがねーし~って、あんたが勝手に来たんでしょ!
という言葉を飲み込んだ。
鼻歌歌っちゃってるし…。
イブだからなのか、道路も渋滞し、歩道も着飾った人たちがたくさんいる。
眩しく光る街を、車の窓から眺めていると、悠が言った。
「あっ、俺、メシ食ってなかった!」
「え?夕飯食べてないの?じゃ、帰ってから何か作るよ」
「…ファミレス行こ!」
「ぁあ”?ファミレス?」
「俺、ドリアが食べたい」
「今日の外は絶対にダメでしょ」
イブで人がたくさんいるし、ファミリーレストランだって、きっと若い人たちで
溢れている。
華やかなこのクリスマスイブ!恋人同士とか家族とかで過ごす、クリスマス!
ファミレスとは言え、悠が、こんな事務所スタッフと二人で食事はNGというか、
もってのほかだ。
「家に帰ったら、ドリア作ってあげるから。ホワイトソースもあるし」
「……着いた」
「へ?」
「ファミレス着いたから、降りろ」
「……」
すでに日付は変わっているが、店の中に入るとクリスマスと深夜ということも重なって、
案の定、人でいっぱいだ。
少し待たされ、席に通された。
あ~、見られてるよ……
私は苦笑いだ。
場所柄もあり、若い人たちにチラチラ見られ始めた。
「おまえ、飯くったんだろ?俺、ドリアとサラダ」
相変わらず、悠はマイペースで周りを気にしていない。
しかたがない、とりあえず、私も何かを食べて気を散らそう…
「んー、食べたけど、私、鳥のから揚げ南蛮セット、ライスで!」
「ぁあ?く、食うんだ…」
悠から呆れた笑いが返ってきた。
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彩香、メシ食ったはずなのにまだ食べる気なんだ。
俺がドリンクバーで飲み物を取りながら、彩香の方を見た。
少し俯いている。
たぶん、周りから見られたり、写メを撮られていることが気になるんだろう。
だけど、いいんだ、俺は彩香と一緒にいられることがうれしいから。
席に戻ると、近くにいた数人の女の子がサインを求めてきた。
俺が、サインをしている時、一人の女の子が彩香に話しかけた。
「あの…あの……彼女さんですか?!」
「え”?私?いえ!……姉…です!姉!!」
急に訊かれた彩香は、あせりながらも幾分か大きい声で言った。
たぶん周りにも「姉」をアピールしているんだろう。
「そうなんですか?!仲いいんですね!」
「はい~、二人姉弟なんで!!」
ニッコリと微笑んで元気よく答えている。
「えっ?三人じゃないんですか?」
「あ”あ”?」
「弟さんがもう一人いるって…」
女の子のツッコミに、俺の顔を見た彩香は、おでこの横に縦線が入っているような
顔になった。
「ええ?あっ、はいはい、えー、あれは~あの弟はお味噌?みたいなぁ、おまけ?
みたいな~感じなんで…ほほほ~ほほ…ほ…」
俺は、引きつり笑顔の彩香をニヤけながら見ていた。
ファミレスを出た後、車の中で彩香が訊いてきた。
「弟いたんだ?」
「ん?いないよ。ねーちゃんだけだよ。たぶん、さっきの子、誠の情報と間違えてる。
俺、綺麗な姉貴一人だけだし」
「あそっ。綺麗な姉貴じゃなくて悪かったわね、ったく!」
彩香はかわいいよ。
それに……彩香は、俺の姉貴じゃない…。
クリスマス・イブからクリスマスにかけて、彩香といられたことが俺には最高の
クリスマスプレゼントだ。
サンタさん!ありがとう!