(49)パーティー…今年は彩香がいるのに…
パーティ当日、朝から彩香は、3階と4階のキッチンを使いわけ、料理の支度をし、午後からデンジャラス、ユリ、麻美が仕事を早めに切り上げ、彩香を手伝いに来ていた。
7時になると徐々に人が集まりだし、8時過ぎに亮の音頭でパーティが始まった。
彩香が作った料理がおいしいと、みんな口々に言い、毎年残っていた料理が、今年はすぐになくなっていき、彩香はほとんどキッチンにいて、料理の補充が大変そうだ。
キッチンにいる彩香の所へ行くと、洗浄器では追いつかない食器を洗っていた。
「彩香、ぜんぜんパーティ参加してないじゃん。だから業者に頼めばよかっ
たんだよ。全部…」
俺はつまらなそうに言った。
「ん?私はいいよ。悠は楽しんでおいで」
「じゃ、俺も手伝うよ」
彩香の横に行き、食器を手に取ろうとしたが、彩香の濡れた手が俺の手を掴んだ。
「こらこら主催者が裏やってどうするの?悠目当ての人だって来てるんだから、
パーティルームお戻り」
「別に俺いなくても大丈夫だよ。みんな勝手にやってるし」
二人で、あーだこーだとやっているところに、ファッション誌のモデルをしている女が、臭い香水を撒き散らしながら、やってきた。
「あ~ん、悠くんいたいたぁ~」
誠に聞いて、俺を探しにきたらしい。
「パーティルーム戻ろうよ~」
女にしつこく絡みつかれる様子を彩香は、口元で笑いながら見ていた。
「うっぜーな。離せよ」
俺は腕に纏わり付いて来る女を振りほどいた。
「悠、女性を邪険に扱うんじゃないの!っとに!いつもいつも」
彩香が言うと、女はあっけらかんとした口調で言った。
「そうだ、お手伝いさん。私、タバコが切れちゃったの、買ってきてぇ」
ああ??ふざけた事を言いやがる。
「彩香はお手伝いさんなんかじゃ、」
「はいはい。じゃ、これ片付けたら買ってきますね。銘柄はなんですか?」
俺の言葉を消すように、すかさず彩香が女に訊いた。
「カクマル・ライト!あっ、お手伝いさんさぁ、料理最高~みんなベタぼめよ」
女は長くゴテゴテと何か変な飾りをつけた爪をビラビラと動かしながら彩香に偉そうに言う。
「本当に?ありがとうございます。ほらほら、悠も早く戻りなよ」
「いいよ、俺ここにいるから」
「悠?後で私も行くから」
彩香は、食器を洗う手を止めずに俺に微笑みかけた。
しぶしぶと、パーティルームに戻ったが、彩香は全然来ない。
待ちきれずに、キッチンにもう一度顔を覗かせたが、そこには、デンジャラスとユリ
と麻美がいた。
「あれ?彩香は?」
「頼まれたタバコを買いに行くって、出かけましたよ!」
少し強い口調でユリに言われた。
すると、デンジャラスが、つまみ食いをしていた骨付きウインナーを俺に向け、
左手を腰にあて、怒りはじめた。
「悠さん!!どういうことですか!!彩香ちゃんは悠さんの女のメイドじゃ
ないんですからね!!こんな寒空にお使いなんて、風邪を引いたらどうするん
ですか!!」
……恐すぎるよ、デンジャラス。
ウインナーの骨までバリバリと食べそうな勢いで詰め寄られた。
「は、はい。すみません…。俺…迎えに行ってきます…」
「よしよし。わかればよろしい」
玄関に向かう俺が少し振り返ると、3人はニンマリとうなずき合い、何かを確認しあっていた。
俺が玄関を出て、階段を下りると、1階の所から話し声が聞こえた。
彩香が階段に座りながら電話をしている。
深沢の名前は出していなかったが、明日の約束をしているようだ。
きっと深沢なのだろうなぁ。
深く息を吸い込むのが辛いくらい、俺の心臓はバクバクしている。
少しだけ立ち聞きをして、俺はそのまま静かにパーティルームに戻った。
暖色の間接照明だけのパーティールームの中では、大勢の人たちが騒いでいる。
俺は出窓に腰掛け、女たちが絡んで来ようと、頬にキスをしてこようが無抵抗のまま、外を見ていた。
彩香は、深沢とは25日に食事に行くって、前に言っていたのに。
イブとクリスマス2夜連続デートかよ…、な~ん…だ…。
ずるいなぁ…深沢。
俺はクリスマス2夜連続仕事だよ…。
彩香がタバコを持って、俺の近くにいた女の所に来た。
「これでいいですか?」
「あ~ありがとう~」
俺は彩香をチラッと見たあと、また窓に顔を向けた。
「あっ、お手伝いさんさぁ、氷がなくなっちゃったの~」
「今、補充しますね」
別の女に言われた彩香は、いやな顔一つせずに、部屋から出て行く。
俺は外を見るフリをして、窓ガラスに映る彩香をずっと目で追っていた。
別に今までのクリスマスパーティが楽しかったわけじゃないけど、こんなに切ない気分のパーティは初めてだ。
全然楽しくない。
酒を飲む気にもなれない。