表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/102

(48)うどん屋・うどん子ちゃん

食事が終わり、お勘定をしようとしたら、おじちゃんがまた奥から出てきた。

彩香が「とてもおいしかった」と嬉しそうに言う。

「おう、ねーちゃん。またおいでよ。今度はこんなムサイ男じゃなくて一人でおいで」

「はい、そうします!!」

えっ…って、おい!

即答返しだよ。


「今日はお勘定いっから」

「えっ、ダメだよ。おじちゃん。ちゃんと払うよ」

「いいからいいから~。ねーちゃんも今日はおごりだからよ。気にすんな」

「でも…」

彩香も遠慮気味だったが 「いいんだって!おごりだ!祝いだ!」 と、おじちゃんはお金を受け取らなかった。

「じゃ、本当にご馳走になりますよ?」

俺たちは、お礼を言って店を出ようとした。


「おう、悠!!ちょっと来い!」

おじちゃんに呼び止められ、俺は彩香に、外で待つように言い、おじちゃんの所に行った。


おじちゃんがいきなり、俺の両手を握り締めた。

「な、な、なんだよ、おじちゃん、急に!」


「おじちゃんは今日、うれしい!祝いだ!よくやった悠!!」

俺は全然意味がわからず首をかしげた。

厚焼き玉子もうどんも天ぷらも祝いと言って、ご馳走になった。

「…なんの祝いなんですか?さっきから…」


「今日はなぁ、お前が彼女と二人で初めてこの店に来た祝いだ!お前があんな

 かわいい女の子とよぉ、二人きりで来るなんて、お前が生まれてから此の方

 一度もなかった!それが…それが…今日はよぉ~、おじちゃんはうれしいんだ、

 うんうん。かーちゃんなんて、さっき仏壇に報告しながら涙をぬぐっててよ…

 うれし~んでぃ…うっうっ…」

本気で泣いている…。

おばちゃんも、うなずいて泣いている…。

俺は、近くの客の視線を受けていた。


どうしたらいいのか、わからず、照れ笑いのままだ。

「……じ、じゃ、今日はごちそうさまでした…また、来ます」

「よしよし。まっ、次からはちゃんと金払えよ!」

「……」


俺が店の出入り口に向かうと、おじちゃんが、

「バンザーイ!バンザーイ!バン、ザーーーーーーーーーーイィィィィィィ!」

と、いきなり万歳を始め、背中におじちゃんの万歳三唱を受けとめながら、急いで店を出た。

そして、閉めた戸の向こう、店内から大きな拍手と歓声が聞こえた。

なんのための拍手と歓声かは、全くわからない。



「ごめん、寒かった?」

「ううん、大丈夫だよ。なんかおじさん叫んでる?っていうか店内盛り上がってる?」

彩香が不思議そうな顔で聞いてきたが、本当のことなんて言えない。

「うん…まぁ、見送りの掛け声?ってヤツかな?いつもだから…」


恥ずかしすぎるぜ、おじちゃん…でもありがとう、おじちゃん、おばちゃん。

俺はうれしかった。

だけど、彩香と俺は恋人同士なんかじゃない。

彩香には、深沢がいる。




寒空の中、店の前には、まだまだ行列が出来ていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【恋愛遊牧民G】←恋愛小説専門のサイトさま。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ