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(47)うどん屋・うどん子ちゃん

「うどん子ちゃん」は、自宅から20分ほど車を走しらせた大通りから、一本内側に入った商店街の一番奥にある。

大通りに車を止め、歩いて店に向かった。


「あっ!このお野菜安い!」

「うお!ケーキおいしそう」

彩香にとって知らない町の商店街は、パラダイスのようだ。

中々目的地に着かない…。

「あ~、いいにほぃ~」

店先で焼かれてる焼き鳥に匂いに釣られ、体が焼き鳥屋に向かっている。


「あ~もぉ、ほらほら、行くぞ!そっちじゃねーだろ?」

彩香のダウンのフードを引っ張って、無理やりその場を離れた。


やっと「うどん子ちゃん」の店に着いたが、人気店のため数人の客が並んでいる。

予約を取らない店なので、常連の俺と言えども順番を待つしかない。

ただ、俺以外、俺の両親、麻矢、麻矢の両親は、行列ができていようが勝手に店に入って、注文したあと、店の奥にあるおじちゃんの住まいの方に上がりこみ、うどんを食べている。

なぜか俺だけが「おまえはまだ早い」と、店主のおじちゃんに許可をもらっていない。


よって、看板娘のおばちゃん(おじちゃんの奥さん)に「二人」と告げ、多少の寒さを我慢し、列の最後尾に並んだ。


少し経つと俺たちの後ろにも列が出来てきた。

周りから「悠だ」と気づかれ始めると、彩香は下を向く。


「なに俯いてんだよ!」 

そう言い、俺は、彩香の来ているダウンのフードで遊んだ。

「これ、やめなさい。もぉ…」 

彩香は俺の手を払いのけた。


「俺たち、うどん食いに来てるだけなんだから顔上げろよ…」 

彩香の耳元で囁いた。

「もしかして、恋人同士に見られちゃったりしてたりなんかして~」 

と彩香を後ろから抱きしめると、周囲の人たちは少しざわついたが、彩香は俺の腕をほどいて俺の頭を叩いた。

「っ痛!なにすんだよ!」 

「調子にのるな!ってんの!!ったく!!…おほほほ~~」

周りの人に愛想笑いをしながら俺をまた叩く。 

じゃれ合っているうちに、おばちゃんに呼ばれ、席に通された。



いつもは店の奥でうどんをこねているおじちゃんが、テーブルに来た。

「よっ、悠!初顔のねーちゃん連れて来たんかい」


「こんにちは。ここすごくおいしいって聞いたから一度来てみたかったんです」

彩香は、手打ちうどんを食べられるうれしさからか満面の笑みで、おじちゃんに言った。


「おっ、ねーちゃん、そうかいそうかい。一度と言わず毎日来てくれ!混んでる時は

 裏のおじちゃんの家で食えばいっからよぉ~」

ぁあ?!おじちゃん!俺にはまだダメだと言ってるくせに…。

おじちゃんはニコニコ顔で彩香に接している。


「えーー、おじちゃん!ずるいよ、俺だってまだ許可もらってないのに…」

「俺はなぁ、かわいいねーちゃんが大好きだからよぉ。悠のコレと聞いちゃー、

 特別だ!とくべつぅ!」

おじちゃんはそう言って、粉まみれの右手小指を立てた。


「やだー、おじさん、コレじゃないですよ。私は悠さんの事務所のスタッフです」

彩香も小指を立てて、笑いながら否定していた。

「えっ?コレじゃないんかい?じゃ、俺のコレにでもなるかい!がははは…。

 ……痛いっ!!何しやがるんでぃ!」

後ろから、おばちゃんがおじちゃんの頭を「おしながき」で、引っぱたいた。



「あんたはもぉ、下品なんだよ!まったく。早く裏行って粉こねといで!!

 この忙しい時に、しょうがない人だね!!」

おばちゃんは、手でおじちゃんを払った。

「ねーちゃん、こんな女になっちゃーいけねーぜ」

「あんたっ!!」

おじちゃんは頭をバンバン叩かれ、奥に入っていった。



「ホントにごめんよ、お嬢ちゃん。あんなんだけど、あの人が作ったうどんは

 世界一だからゆっくり食べていっておくれね。で、悠、今日は何を食べるんだい?」

「いつものでいいよ、釜揚げと天ぷら盛り合わせ。あっ、俺、ニンジンの天ぷら抜きね」

おばちゃんに告げると、彩香が俺を睨んだあと、おばちゃんに微笑みながら言った。

「ニンジン入れていいですから」

「…彩香、ざけんなよ。おばちゃん、いつものようにニンジン抜いてね!」 

俺は、おばちゃんを拝んだ。

「甘やかさなくていいですから!ニンジン、お願いします」 

ペコッと頭を下げ、彩香が言うと、おばちゃんが笑い出し、

「あんたたち、仲がいいのね。悠には、こういう彼女が必要だったのよね」

と、言い残して奥に消えた。



釜揚げうどんと天ぷらが運ばれた後、厚焼き玉子がテーブルに置かれた。

厚焼き玉子は頼んでないというと、給仕の人に「おやじさんとおかみさんからの祝いだそうです」 と言われ、店の奥を見ると、おじちゃんとおばちゃんが手を振っている。

俺は頭を下げ、彩香は二人に手を振り返していた。


「ねぇ、祝いって?なんかめでたいことでもあったの?もうすぐクリスマスだから?

 おじさんとおばさん」

彩香に言われたが、あの夫婦がクリスチャンと言うことは、聞いたことはない。

住まいの方には、確か大きな仏壇があったはずだ。


首を捻りながらも、俺たちはありがたく厚焼き玉子を頂いた。

しかし、天ぷらにはしっかりとニンジンが入っている。

今まで、こんなことはなかった。

衣の奥でオレンジ色に輝くニンジンを、俺は彩香の天ぷらの上に乗せた。

何も言わず、彩香はそれを返してくれた。

俺はもう一度、「これ、俺からのクリスマスプレゼント。いつも働いてくれてありがとう」 労いの言葉と共に彩香の皿に乗せた。

彩香の目つきが怒り始める。


「ちょっと、なにガキみたいなことやってるのよ」

「…おまえにやる」 

「あんたね……食べれるでしょ!ニンジン!」 

彩香が俺のそば汁の中にニンジンを突っ込んだ。


「テメー何しやがる!俺は自称ニンジンアレルギーだって言ってんだろ!」 

「なにがニンジンアレルギーなのよ!悠の体のどこにブツブツが出てんのよ!!」

「うっせ!透明で見えねーブツブツが出てんだよ!ほらっ!」

俺はTシャツの袖をめくって彩香の目の前に腕を出した。

「な~にが、見えないブツブツよ!見えないんだからブツブツなんてないのよ!」

割り箸の背で俺の腕をブスブスと刺した。

「っ痛ぇーー!なにすんだよ!彩香!」

もめ始めた俺たちを周囲の客が見ている。

しぶしぶ、おじちゃんが仲裁に入った。

「おいおい、おまえらなぁ、仲がいいのはわかるけど、早く食ってくれないと

 うどんがかわいそうだ!早く食え!!」

おじちゃんの一喝で俺たちは、大人しく食べ始めた。


無言のまま俺は、ニンジンを彩香の汁の中に入れた。

彩香は俺を睨みながら、うどんをすすり、テーブルの下で、俺の足を蹴った。

俺がけり返す…エンドレスだ。


おじちゃんとおばちゃんは隅の方で、ニンジン一つで戦う俺たちを見て、笑っている。


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