(45) 彩香、説教する
毎年、悠たちゴーディオンは3階のスペースを使って、クリスマスパーティを
開いていた。
今年は、イブ、クリスマスとも仕事が入っているため、23日にパーティを開くことになった。
招待客は業界や友人など、ほとんどが同世代のわいわいがやがや的なものだ。
人数は毎年、80人前後。
飲食物や準備、後片付けは全て業者まかせ。
いつも、パーーっと、飲んで騒いで、ビンゴゲームなどして勝手に盛り上がっているという。
パーティ8日前、私は、応接室に集まっていたゴーディオンに呼ばれた。
「さやちゃんも参加するだろ?音楽部のスタッフも来るし」
「4階に住んでるんだしさ、疲れたら上に戻ればいいじゃん?」
キヨたちに誘われた。
社長や加山は参加しないが、若いデンジャラスやユリ、麻美は参加するという。
「じゃ、料理、何か作ろうか?」
「80人以上来るんだよ?無理だよ」
「ん~、大丈夫だよ。作れるよ、私。ケイタリングの物と合わせればいいじゃない?」
悠は心配していたが、私は自信満々だ。
大人数の料理は、田舎で親戚一同、近所の人の集まりでは、チビから爺さんまで合わせ40人以上になることもある。
だいたい、私が中心で作っていたので大皿料理は慣れている。
「何でもいいんでしょ?じゃ、料理と飲み物はわたしが手配するから」
「…大丈夫かよ」
「うん!で、予算いくら?20万?30万?くらい?」
私の予算額にみんなは顔を見合わせ、アイコンタクトを始めた。
高かったかしら…。
「えーと、に、200…万くらい…かな?いつも…」
庶民の私は、亮の言葉に耳を疑った。
「…はっ?なんて?今、なんておっしゃいましたかーー?亮くん…?」
「さ、じゃない…200万…です…(本当は300位だったりして…)」
「ええーーーー!!あんたたちーー、アホ?ねぇねぇアホ?」
嘘でしょ?何!!その無駄使い。
どうやら、料理もホテルやデリから贅沢な物をどんどんとケイタリングし、飲み物も適当に酒屋で配達してもらい、セッティングや掃除などの後片付けも業者に頼んでいるからこの費用になるという。
パーティに参加しない社長や麻矢からも、ポケットマネーで費用を出してもらっている
らしい。
ど、どんだけみんなコイツラを甘やかしているんだろう。
呆れた私は、全くお話にならない4人を横一列に並べ、ソファに座らせた。
いくら人気バンドとはいえ、そんなにガッポガッポと自分達にお金が入って来ているわけではない。
まだ給料制だし、それにバンド人生というものはこの先どうなるか、まったく誰にもわからない。
「若いうちからの贅沢は敵」だと教えた。
万が一、年をとって財産を無くした時、今の生活とのギャップに耐えられる根性は
この4人には、無いとみた。
悠が乗っている車でさえ、私にはありえない。
24才で、ツンベイ車など本当はもってのほかである。
うちのお父ちゃんなんか、60歳で軽トラで頑張っている!
私が話している時、途中で悠が手をあげて、
「金があるなら使ってもいいんじゃないですか!」 などと、反抗的な質問をした。
「お金があるから使う…ごもっとものご意見、ありがとう」
確かに!お金は使って回していくものです!!
が!んが、使い方というものがあります。
無駄に使うな!ということです。
つめるところはつめる。あまったお金は人のために使う。
寄付をしたり(たとえば、私にとか…)。
私は延々2時間ほど、説教をした。
「……」「……」「……」「……」
4人はソファに座ったまま下を向き、黙る姿は小学生が母親に怒られているようであった。
深く反省したようなので解放した。
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俺たちが彩香の説教を受けてから、パーティ前日までの彩香の行動は速かった。
いつの間にと言う感じで、3階の掃除、セッティング、飲み物と少しのケイタリング料理、
ビンゴゲームの賞品の手配など全て彩香がやってくれた。
なんだか、いつもと違うキビキビした動きだった。
毎年恒例になっている「願い事が叶うケーキ・タイム」のケーキは、キヨが調達の予定だ。




