(42)出た!暴走夫婦…
いつも読んでいただいているみなさま、ありがとうございます。この『話』より、別ストーリー「恋する男・暴走中」の結莉&修平が登場します。ただの暴走夫婦として流れに入ってくるだけですが…。
車の中から麻矢に連絡していたので個室をキープして置いてくれた。
部屋に顔を見せた麻矢は、接客に忙しいから後で来ると言い、すぐに仕事に戻り、
俺たちは二人で食事をしていた。
―――トントン。
ドアが開いた。
「いよっ!!」
「えへへ!」
麻矢かと思いきや、ドアのところには、ニンマリ顔の男とほくそえんでいる顔の女が仲良く立っていた。
『結莉&修平の暴走夫婦』が登場してしまった。
「き、来てたんですね…」 俺の顔は引きつる。
『Kei』という名で世界的有名な作曲家で大酒飲み・結莉。
人気№1ロックグループ・リフィールのボーカリスト・修平。
尊敬に値する音楽家二人で、私生活でも俺と麻矢はお世話になっているのだが、
お騒がせ夫婦として有名だ。
ただ、何か問題を起しても良い方に転んでいくのが、この夫婦のすごいところでもあるし、
誰からも愛されているということも、これまたすごいんだけど…。
「なんか、お邪魔だったかしらん?悠ちゃん?ん?ん?」
「ぜんぜん、邪魔じゃないよな!悠!!」
「だよね?」 「だよ!!うん!!」
勝手に夫婦二人で会話をし、うなづき合い、勝手に修平が俺の横に座り、勝手に結莉が
彩香の隣に座った。
―――邪魔です!!
と、言いたいが、言えるわけもなく…
今日も俺はこの夫婦に流されていくんだろうなぁ。
いつものことだけど…。
店のスタッフが、結莉用にテキーラのボトルとグラスを持ってきた。
……もしかして、ここに長居する気ですか…
俺が彩香を紹介しようとしたら顔見知りだったことに驚いた。
レーベル会社のパーティで麻矢に紹介されていて、その後も何度か会っているらしい。
「悠ちゃん車だからお酒ダメでしょ?じゃぁ~彩香ちゃん、これ!」
結莉は彩香に、空のロンググラスを手渡した。
「結莉さん、彩香、あんまりお酒飲めないから…」
俺が言うと、結莉が冷ややかな視線を俺に浴びせ、真顔で言った。
「テキーラなら、そんなにキツくないからっ!!」
何をもってこの人は、テキーラをキツくないときっぱり言い切れるのだろうか…
「無理に飲ませるなよ、結莉。おまえと違うんだからさぁ。彩香ちゃん可哀相だろ?
なぁ、悠!」
俺の肩に腕を回し、結莉に対して修平が偉そうに言ったが、結莉の目が怖い。
この時、修平を睨みつける結莉の後ろで「尺八の音色」がBGMとなって響いた。
俺には、ちゃんと聞こえた。
きっと、家に帰ったら修平さん…〆られるんだろうなぁ。かわいそうに…。
「じ、じゃぁ、いただきますので…」
修平を睨み続けている結莉の腕を引っ張り、彩香が結莉の前にグラスを出した。
「ん?そ~ぉ?じゃ、今日は少しだけにしようね?彩香ちゃん?」
そう言うと、ニコニコと笑い、結莉はロンググラスの四分の四までテキーラを注いだ。
わかりません。俺は結莉さんが、わかりません…
それのどこが、少しなんですか!
結莉と彩香は二人で乾杯をし、テキーラを飲み始めた。
「で、どこ行ってきたの?今日は」
「ポンポコポンランドに行ってきたんです」
彩香が答えた。
「ええ~~!!もぉ!ラブラブなんだぁ」
結莉は麻矢から何かを吹き込まれているようだ。
「……いやいや、結莉さん…違うし」
彩香が結莉にツッコミを入れている。
「ポンポコポンランドにデートに行くと別れるって聞いたことあるぜ!」
修平がまた変なことを言い出した。
な、なんですかーーー。それ!
俺、聞いたことねーよ!そんな話!
俺が変な顔をしていると、修平が続けた。
「なんかさ、そこに恋人同士で行くと、別れる確率が高いんだって。
だから俺、結莉とは絶対ポンポコポンには行かないんだなぁ、これが!!
まっ、俺たちはすでに夫婦だけど、俺はぜってー行かない!!」
「私たち別に、恋人同士じゃないですから~」
彩香が手を左右に振って否定した。
そうだよ…恋人同士じゃ…ないよ、俺たち…
わかってる…そんなこと…
「そっか!あなた達二人は恋人同士じゃないんだったら、大丈夫だよ!ね!
まぁね、都市伝説みたいなもんだからね、そんなの~。
私のマネージャーだって今のだんなさんとポンポコポンに行って、
そこでプロポーズされて結婚したんだから、迷信迷信!」
結莉は、チラッと俺を見てから、なにかを企んだ目をして彩香の肩をバンバン叩いた。
そして、俺と彩香はこの先、この暴走夫婦にいい様に遊ばれることになる。
特に、結莉の目の奥深くに隠されている企みに、俺は気がつかないでいた。
さんざん暴走夫婦に弄くられまくり、俺と彩香が家に帰ったのは深夜2時を回っていた。
彩香が自分の部屋に入ろうとした時、小さな箱にちゃんとりぼんがついた、
さっき買ったストラップを手渡した。
「これ、やるよ。ポンポコポンで買ったんだ」
「何何?」
彩香が包みを開けてストラップを出した。
「た、高そう…なんですけど…」
「ん?そうでもないよ。いつもメイドやってくれてるから、12月のボーナス…」
「ボーナス?貰っていいの?!」
「うん…」
「わーい!ありがとう~。大切にするね!」
彩香はいつも素直に嬉しそうな顔をする。
子供っぽくみえてしまうのもその所為かもしれないが、俺はそんな彩香の笑った顔が大好きだ。
ただ、本人に好きだと言えない俺は、その笑顔を見るとせつなくなる。
彩香はルンルンと部屋に入って行ったが、俺も同じものを買ったとは言わなかった。
恥ずかしくて……言えるわけがない…。