(41)デート…のようなもの?
来る前はブツクサ言っていた彩香が、テーマパークに着いた途端、
「これに乗る、次はあれだ!」と、はしゃぎまくっていた。
が、連れて行かれたのは全部絶叫マシン系。
俺はもう少し、乙女ちっくなものに乗りたい…
たとえば、『くまのプータロウ・はちみつ狩り』のような黄色い蜂蜜の壷に乗って森の中を
クルクル回るかわいいアトラクションとかが…いいんだけど…
俺を一人ベンチに残し、いい大人がスキップをしながら、彩香はワゴンで売られているポップコーンを買いに行き、またスキップ状態で戻って来た。
スーベニールボックスに入ったポップコーンは、俺の首にぶら下げられた。
「……あの…これ~なんスすかぁぁ」
「ポップコーンっス!」
「…なんで、俺がこんなのぶら下げなきゃなんねんだよ!」
「似合うよ!ガキん子には!」
「彩香、テメー!ふざけんなよ!」
と、言いつつ、俺はうれしそうに、ポップコーンを食べている…
「次あれに乗ろうぜ!」
俺は『ファンハウス』を指さした。
お化け屋敷。
「えっ……。ふふふ~、違うのにしない?」
彩香の口元は笑っているが、目が全く笑っていない。
「なんか、文句あんの?全部、彩香が乗りたいのばかりだったんだから次は」
「違うのにしない?」
「なんで?」
「ん~、あっ、あれにしよう。顔全部同じなのに世界の衣装を身につけて音楽に
合わせて楽しそうに首振ってるヤツ!終わるとさぁ、あの曲が耳に残ってて、
ついつい口ずさんじゃったりしてさぁ、アメージングだよね~
ははは…あは…はぁ…」
訳のわからないことを言い出す。
「やだね。あんなのつまんないじゃん。プールの匂いするし」
「じゃ…ト、トンボ?」
ねーよ、そんなアトラクション。
彩香はなぜか、あせっているようだった。
「…もしかして…お化け屋敷とか恐いの?」
「…べつに?」
そう言うと、顔を引きつらせた彩香は、ポップコーンを口に目一杯詰め込んでいた。
俺はニヤッとした。
ファンハウスに向かおうと歩き出したが、隣にいるはずの彩香との距離がだんだんと離れていく。
振り返って彩香を見ると、俺が一歩前に歩くとあいつは一歩後ろに下がった。
「?」
今度は二歩前に歩いてみた。
彩香は二歩後ろに下がる。
「……、あのさ、おまえ何やってんの?」
「べつに…?」
彩香のところに行き、手を掴み、足取りの重い彩香を引っ張りながら、ファンハウスの前まで来た。
彩香は無言だ。
アトラクションの中に入ったと同時に、繋いでいる彩香の手に力が入ったのがわかった。
えっ?…あはっ、やっぱ恐いんだ。
絶叫系は良くてもお化けは嫌なのか…。
移動車に乗るまでの間、個室の中に20人ほど押し込まれると、俺は彩香を後ろから抱きしめた。
他の人たちもみんなカップルばかりだから別に気にしなくていいかと思った。
我ながら大胆な行動だ、うん。
「恐くないって、俺がいるじゃん」 彩香の耳元で言った。
「……こ、こわいょ…」
ボソボソと顔を引きつらせながら彩香が言う。
俺を撥ね退けないということは、本気でビビっている。
ぎりぎり3人が横並びに乗れる移動車に乗り込むと、彩香が一人真ん中にデンと
座り、俺は端に追いやられ、小さくなって座っていた。
「…おまえ、もう少し、そっち行けよ。狭いよ」
「だって、端っこ恐いもん……うわっ!おっと…びっ、びっくりした!!」
横から何か出たらしい。
俺は、彩香の驚く声と、常にビクッビクッとしている動きに笑いを堪えていた。
座っている椅子が回転したり、何かの影が横切ったりすると、お化けの方が逃げていくんじゃないかと思うほどの奇声を発している。
これだけ恐がってくれる彩香を、このアトラクションを作った人に見せてあげたい。
きっと製作者は感無量だろうなぁ。
俺にぴったりとくっ付いていることは、うれしいが、
「ギャッーーーーー!うわっ!うぉぉぉ!ひぇ~~!」などと、
耳元でずっと叫ばれ続けると鼓膜がどうにかなりそうだ。
なにがそんなに恐いのかもわからない…
恐いなら目瞑ってたらいいのに、ちゃんと見てるし…
アトラクション終盤にミラーに写し出される自分の姿に驚き、
「キ、キヤヤャャ~~で、出たーーー」と最後の雄叫びを上げた。
ミラーに写っているのは自分なのに…。
アトラクションを出ると、すぐに彩香は復活し、「あ~~~、楽しかった」などとぬかし
何事もなかったかのように、大手を振って一人で歩き出した。
俺は耳が変だ…。
夜のパレードを見て、花火を見たあと、彩香が事務所のみんなにお土産を買っている間、俺はベンチに座って待っていたが近くにあったアクセサリーショップが目に入り、覗きに行った。
ショップの中は、あまりお客もいなかったが、店員や数人の客は俺に気がついた。
バンドのボーカリストがこんなところで、それも男一人でアクセサリーを物色していることが恥ずかしかったが、彩香に何か買おうと思った。
結局ショップスタッフの勧められるまま、ホワイトゴールで作られているキャラクターのストラップを購入。
そ、それも…ペアで…
ありえねーよな、同じもの持っちゃうの?俺…
俺って、もしかしたら夢見る男なのかもしれない。
ストラップをラッピングしてもらっている時、彩香から連絡が入った。
買い物が終わってベンチに行ったら、俺がいなくなっていて「置いてかれたとおもった」と情けない声がした後、「携帯くらいしろ!」と、ものすごい勢いで怒られた。
はぐれても、大人なんだから一人でも帰れるだろうに…
「もうすぐ行くから、動かないで待ってろよ」
「ぁい…」
「お待たせ」
「あっ、やっと来た。ビビッちゃったよ、いないから~」
「…この荷物、おまえの?」
ベンチに座っている彩香の足元には、大きなビニールの袋が3個置かれていた。
よくこれだけ土産買えるよなぁ…
「そうよ。麻矢さんと音楽部とタレント部のお土産と自分の!」
俺にはないのかよ…。
駐車場に行き、クーペに乗り込み、ハンバーガーだけしか食べていなかった俺たちは、
そのまま麻矢の店『テオーリア』へ車を走らせた。