(40)俺、遊園地に行きたい!
朝、8時。
目が覚めた私は身動きが取りづらかった。
「ん?え?…悠…」
後ろから悠に抱きしめられて寝ていた。
そうだ、昨日は深沢さんが急に接待が入ってオールでの映画鑑賞がキャンセルになって…
家でゴロゴロしててそのまま寝ちゃったんだ。
けど、
「…なんであんたがここにいる……ふっ…」
静かに悠の腕をはずした。
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目を瞑ったまま、俺は手で彩香を探した。
―――ん…彩香?
目を開けた。
「……」
彩香はいなくて、昨日彩香が掛けていた毛布と、なぜか自分の掛け布団が掛かっていた。
部屋から布団なんて持ってきた記憶がない。
布団に包まったまま、少しボーっとして天井を見ていた。
リビングに戻ってきた彩香が、目覚めている俺に気づき、まだ横になっている俺の傍に腰を下ろした。
「おはよ!っていうか、なんで悠がここで寝てるの?」
彩香は、俺の鼻をちょんちょんと突付き、口角を上げて微笑んでいる。
「ぁあ?ん~、昨日酔って帰ってきたから…記憶がない」
嘘です!本当は、はっきりと記憶がありました。
目を擦りながらとぼけた。
「ねぇ、昨日…出かけなかったの…?」
「うん。深沢さん、急に仕事が入っちゃって」
「あっ、振られたんだ。彩香」
「ちょっと!振られたんじゃないわよ!」
布団から顔だけを出して、うれしそうな顔の俺のおでこを、叩こうとする彩香の手を掴んだ。
「残念だったなぁ。やっぱ、振られたかぁ」
「だから!振られてないってば!!」
ムキになっているけど、彩香の顔も笑っている。
いつもの笑顔。
「寒くなかったか?ここで…寝てて」 俺が聞いた。
「うん…?悠が背中にくっ付いていたから、寒くなかったよ。人肌って温かいよね」
窓から入る冬のゆるい陽射しと毛布と布団と、彩香の言葉が一斉に俺にのしかかり汗が吹き出す。
「お、俺、シャ、シャワーでも浴びてこよ~っと…」
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シャワーから出るとリビングに急いだ。
二人とも自分の部屋にはちゃんとテレビもソファもある。
部屋で誰にも邪魔されずリラックスできるけど、だけど、いつもリビングでテレビを見たり本を読んだり昼寝したりしている。
麻矢もそうだけど、彩香も家にいるときは必ずリビングにいる。
彩香と一緒にいる時間がうれしいから、少しでも一緒にいたいから俺はリビングのソファに腰掛ける。
「ねぇ…遊園地行こう。遊園地!これから…。どうせ彩香、暇だろ?」
「…あのね、そういうところ行くときは、彼女と行きなさい。写真週間誌に写真撮られて
もいいような彼女と行きなさい」
「俺、彼女いないんだけど。それでも遊園地行きたい時はどうしたらいい?」
彩香は、「ん~」と考えながら小袋に入った煎餅を右手でチョップしバラバラにした。
「メンバーとか?相楽さんとか?仲間がいるじゃない。あとは……」
「……なんで、男と。それもメンバーとか相楽ちゃんなんだよ!」
「みんな遊園地とか好きそうだし」
どういうイメージなんだよ、遊園地が好きそうな半ビジュアル系バンドって…。
確かに相楽を含め俺ら5人で一度行ったことがある。
まだ10代後半でデビューが決まる直前に相楽に祝いだと言われ、連れて行ってもらった。
開園から閉園まで思いっきり遊んですごく楽しかった…
というか、今そんな思い出にしたっている場合ではない。
「誰か、そこら辺でかわいい子ナンパしてみたら?悠にだったらホイホイ付いてくる子
いるよ、うんうん」
一人で言ってうなずいてんじゃねーよ…。
彩香とじゃなきゃ意味ねーんだよ…。
「じゃ、夕方からなら暗いし、目立たないから行こう」
「私は保護者じゃないってーの」
全然わかってない…
結局、夕方から入れるフリーパスで行く事にした。