(34)悠のジェラシー
「さやちゃん~お茶三つお願い」
タレント部から来客用のお茶出しの仕事が入る。
給湯室でお茶を入れ、タレント部のお客さまに出し、音楽部に戻ろうとした。
「彩香ちゃん!新しいマンガあるよ」
「お菓子食べて行きなよ」
お声がかかる。
「え~、いいんですかぁ」
などと毎回のことだが、一応遠慮気味に答える。
みんなが仕事をしている中、タレント部の奥のあるソファに寝っころがり、
マンガを読み、お菓子をパリパリと食べ始めた。
「どほほほ~」
「ひょほほほ~」 パリパリ~
「ぶはははは~」 ポリポリ~
タレント部のルームの中に笑い声とお菓子を貪る音が響く。
毎度の光景。
みんなは「クスクス」と笑いながらも、私を甘やかしていた。
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携帯をかけても出ない彩香に、痺れを切らし、俺は事務所まで下りてきた。
「彩香は?携帯鳴らしても出ないんだけど…」
「あっ、今タレント部に行ってます」
「そう…」
そのままみんなの仕事ぶりを見つめつつ、彩香がいつも座っているデスクに腰を掛けた。
机の上にはキャラクターものの文房具のオンパレード。
子供か……あいつは…。
俺はペンの上に付いているマスコットをクルクルまわした。
「小学生みたいな、机の上だよなぁ…」
「彩香ちゃん、キャラクター好きだから!ふふ。でもそこに置いてあるのってタレント部
の人たちから貰ったものも多いんですよ。男女問わず結構人気者だから、いわゆる彩香
ちゃんファンからの貢物!!キャハキャハ~~」
デンジャラスが、昼食前のおやつのアンパンを食べながら教えてくれた。
ファン…って?なんであいつにファンがいんだよ。
10分、20分……
ぜんぜん、戻ってこねーじゃねーかよ…
「遅くない?」 会計のユリに聞いた。
「え~?いつもよ?たぶん、お菓子でも貰って、漫画でも読んでるのかも…ははは~」
「はぁ?なにそれ」
ユリから話を聞き、呆れた俺はタレント部に向かった。
俺がタレント部に行くことをユリたちもびっくりしていたが、タレント部のドアを
叩きドアを開けると、それ以上に驚いているタレント部のスタッフたち全員が俺を見た。
ここに入るのは、ほぼ初めてじゃないかと思う。
用がないから来る必要がない。
タレント部は広かった。
スタッフも多かった。
音楽部の小ささを実感…。
音楽部も頑張らないと…。
女性スタッフはキャーキャーと言っている。
そんなに俺を見ないでほしい…はずかしい。
「ぉお?スンゲー珍客。悠、なんか用か?」
タレント部で唯一の飲み友達、苅野に声をかけられる。
知っているヤツがいるということは、少しホッとする。
「刈ちゃん、彩香来てる?」
「彩香ちゃん?ソファのとこに…いるけど…」
苅野が指をさした奥先には、ソファセットが見えるだけだ。
人影はない。
みんなが見守る中、俺はツカツカと彩香のいるというソファの所に行った。
ソファを覗くと、彩香が寝そべりマンガを読みながらお菓子を食べていた。
ご丁寧に靴も脱いでいる。
……ありえない。
リラックスしすぎだろ…。
「ぶっひょひょ~」
「ひゃーひゃひゃひゃ~」
俺に全然気がつかず、マンガを読んで、変な笑い声を上げている彩香にムッとし、
本を取り上げ怒鳴った。
「おまえなぁ、なにやってんだよ!」
「んげっ!」
「んげっ!じゃねーよ。んげっ!じゃ」
「あ~、いいところなのにぃ…」
残念そうに彩香は頬を膨らませた。
「メシ作れよ、腹減った」
「えー、今、事務所で仕事中だよ」
「どこが仕事してんだよ!それにここはおまえの仕事場じゃねーだろーが!」
無理矢理、彩香の腕を掴み立ち上がらせた。
「ち~、めんどっちーなー」
彩香の口が尖り、また頬が膨らんだ。
俺は片手で彩香の頬のふくらみを、力を込めて潰した。
その光景をみんなに見られていたが、音楽部ではいつものことなので、自分の行動を別段
気にも留めなかった。
マンガを片付け、ソファを整えたあと、俺は彩香の手を掴み出て行こうとした。
「あっ、彩香ちゃん。お菓子持って行っていいよ、あっちのも!」
「これもあげる!」
「いいの?いつもありがとう」
ニコニコ顔でお菓子を貰っている彩香にどんどん苛ついていく。
「刈ちゃん、お邪魔さん…」
ぶっきらぼうに言った俺は彩香の手を引っ張り、タレント部を後にした。
彩香の手を握る俺の手には力が入っていた。
ムカついている俺は廊下に出て給湯室の前で、彩香の持っていたお菓子を
取り上げて言った。
「おまえ、なにタレント部に所属してんだよ!」
「えっ、いいじゃない。みんな親切だし…」
「彩香は音楽部なんだぞ!!」
「でも吉田プロだよ、みんな」
……俺、なに嫉妬してんだ?誰に?
彩香の言うとおり、タレント部も吉田プロだよなぁ……
自問自答していた。
「とりあえず、メシ!」